がん免疫療法コラム
CAR-T細胞療法「キムリア」部会通過、近く正式承認へ
前回、「がんワクチン療法」を本コラムに掲載する旨、お伝えしましたが、良いニュースが入って来ましたので、今回はそのニュースと関連事項をご報告させていただきます。
新聞等で報じられていますので、既にご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、キムリア点滴静注(チサゲンレクルユーセル、ノバルティスファーマ)が2月20日の厚生労働省 薬食審再生医療等製品・生物由来技術部会にて承認される方向で意見がまとめられ、近く厚生労働大臣が正式に承認する見通しとなりました1)。米国では2017年9月に、2018年7月にはヨーロッパでそれぞれ承認が取得されていますが、本邦では最初のCAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体発現T細胞:以下、CAR-T)となります。
■3月26日に製造販売承認が取得されました。なお、承認に際し厚生労働省から「緊急時に十分対応できる医療施設において、造血器悪性腫瘍及び造血幹細胞移植に関する十分な知識・経験を持つ医師のもとで、サイトカイン放出症候群の管理等の適切な対応がなされる体制下で本品を使用すること」との承認条件が付与されています(ノバルティスファーマ株式会社 3月26日付プレスリリースより)。(4.1追記)
◆CAR-Tとは?
CAR-Tは、患者さんから採取したT細胞の遺伝子を改変することにより、リンパ球やB細胞上にあるCD19という抗原を認識するようにした上で、患者の体内に再び戻す免疫療法です。一度、細胞を体外に出し、また体内に戻しますので、分類としては養子免疫療法(Vol.7参照)に該当します。CARとはキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor)を意味し、T細胞を活性化するために人工的に作製された受容体です。患者さんの体内からT細胞を採取し、そこに遺伝子改変技術(遺伝子を取り出し、別のゲノムに導入することで、新しい性質を加える技術)を用いてCARを発現させます。このCARが、がん細胞に発現している抗原(CD19)と結合し、さらにT細胞を活性化することで、がん細胞を死滅させます。つまり、CARはがん細胞にくっ付くための「磁石」と、T細胞を活性化するための「スイッチ」を兼ね備えていると言えます。
◆効能・効果・副作用
□対象
・「再発または難治性のCD19陽性の急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)」(投与時に25歳以下)
・「再発または難治性のCD19陽性のびまん性大細胞型細胞リンパ腫(DLBCL)」(成人)
標的としてCD19が選ばれたのは、CD19がリンパ球では高頻度に発現し、その頻度が他の抗原よりも高く、またB細胞性のがんでは、ほぼ100%発現しているからです。
□投与方法
単回(1回)の点滴静脈内注射
□成績(効果)
国際共同第2相試験ではB-ALLで全寛解率が81.3%、DLBCLで奏効率(完全奏功+部分奏功)が53.1%という成績が報告されています1)。他の試験ですが、CAR-T後に長期に生存する患者さんも認められており、そのような患者さんの血液中にはCAR-T細胞が検出され、これが「がん細胞」の監視を続けていると考えられています2)。
□副作用
問題となる毒性は、サイトカイン放出症候群です。T細胞が活性化されすぎるとサイトカインが過剰に放出され、発熱、悪寒、悪心、倦怠感、頭痛、低血圧などの症状が発現する場合があります。この副作用が発現し、程度が重い場合には、トシリズマブ(商品名アクテムラ)やグルココルチコイドが用いられます。
◆課題
□薬価
患者さんごとにそれぞれ細胞を取り出して、CARを発現させるため、非常に高額になっているのが大きな課題です。効果がなければ請求されないようですが、アメリカでは1回あたり約5,000万円するそうです。本邦では保険適応になる予定であり、公的保険制度と高額療養費制度の活用により患者側の負担は軽減されますが、財政への負担が懸念されています。
■5月22日に薬価収載されました。
・薬価:1患者当たり 3349万3407円(5.26追記)
□適応の拡大
血液がん以外に固形がんへの適応拡大が期待されていますが、海外でもまだ固形がんに対し適応を取得した例はありません。適切な抗原が見つかっていない、固形がんの中にを送り込むのが難しい、がんやその周辺では免疫にブレーキをかける機構が働いているなど、克服すべき課題があるようです。
■American Association for Cancer Research(AACR2019)[3月29日-4月3日 米アトランタ]で、固形がんに対するCAR-Tの有効性を示す報告が米国の研究者によって行われ(3月31日)、悪性胸膜中皮腫や乳癌および肺癌の胸膜への転移に伴う悪性胸膜疾患に対する第Ⅰ相試験の結果が示されました。21名の患者に対しCAR-Tが胸膜に直接投与され、その内13名においてCAR-Tが数か月にわたり血中に検出されました。これに伴い腫瘍マーカーの低下も認められました。また、CAR-T投与後にCAR-Tの機能的な疲弊が認められた場合には抗PD-1製剤が投与され、それによりCAR-Tの機能が回復する可能性が示唆されています。(4.1 追記)
◆前処置薬と副作用の対処も併せて審査
CAR-Tの承認に向け、前処置薬や副作用の処置に使われる薬剤も並行して審査されています。
□前処置薬
CAR-Tによる治療を行う前に、体内の制御性T細胞(免疫反応を抑制)を予め減少させておく必要があり、そのために抗がん剤が使われます。それらの抗がん剤も併せて審議されています。
□副作用の対処
抗抗体医薬であるトシリズマブ(商品名アクテムラ)が「サイトカイン放出症候群」に対する適応を取得すべく申請されており、その審査も行われています。
以上、課題もありますが、満を持して強力な免疫療法が加わるという喜ばしいニュースをお伝えしました。
- ミクスon line, 薬食審・再生医療等製品部会 初のCAR-T細胞医療「キムリア」承認了承 https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/67035/Default.aspx
- 中沢洋三, キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法, 信州医誌, 61(4), 197-203, 2013 http://s-igaku.umin.jp/DATA/61_04/61_04_02.pdf