がん免疫療法コラム

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「免疫細胞」と「炎症」と「がん」の話

今回は「免疫細胞」同士の関係、「顆粒球」の大部分を占める「好中球」と「リンパ球」の関係から始め、「炎症」と「がん」との関係についてご説明します。「好中球」と「リンパ球」の比は炎症マーカーとして知られていますが、最近になり様々な「がん」の予後との関係が報告されています。「炎症」がどのように「がん」と関りがあるのかを見て行きましょう。

 

■好中球・リンパ球比(NLR)と炎症

好中球とリンパ球は免疫細胞ですが、共に炎症細胞とも呼ばれ、「炎症」の起こる場所に集まります。好中球は主として急性期、リンパ球は慢性期の炎症に関与しています。2つの細胞は免疫機能の指標としてだけではなく、「炎症」の指標としても用いられており、好中球数とリンパ球数の比(NLR)という形で表されています。高値を示せば、それだけ「炎症」の程度が重いということを示しています。

また、NLRは進行している「がん」において、高値を示すことが知られています。これは、「がん」の組織内で起きている「炎症」が原因となっていると考えられています。さらに腫瘍浸潤リンパ球の減少など「がん」に対する免疫力の低下と関連しており、高値を示す場合は「がん」の予後が悪いとする研究結果が報告されています1)。転移再発乳癌ではNLR 3.7以上の場合、予後を予測する因子(予後が悪い)となる可能性が示唆されています2)

このように好中球とリンパ球は免疫系や神経系と関連しているだけでなく、「炎症」のマーカーとして用いられ、「がん」の予後因子としてもその有用性が示されつつあります。これらの関係から推察されるように、「炎症」と「がん」には深い関りがあります。

 

■炎症とがん

慢性的な「炎症」とそれに関連して発現する「がん」には、慢性潰瘍性大腸炎、クローン病と大腸がん、慢性肝炎と肝がん、ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃がん、ヒトパピローマウイルスと子宮頸部がんなどがあります。

「炎症」と「がん化」のメカニズムはまだ明確には解明されてはいませんが、慢性的な「炎症」にさらされると体内のDNAが損傷したり、がん抑制遺伝子が変異したりすることによって、「がん」にかかりやすくなると考えられています3)

国立がん研究センターなどが行った研究から、アスピリンが大腸がんを予防することが確認されており、アスピリンの抗炎症作用によって大腸がんの発現が抑えられているのではないかと推察されています4

 

現在、慢性的な「炎症」によって様々な病気が引き起こされることが分かってきており、「がん」もその一つです。「がん」の場合にはその発現だけではなく、「炎症」によって増殖や転移も促進されると言われています。慢性炎症は研究が盛んに行われているホットな領域であること、また、「免疫」と「炎症」と「がん」には深い関係があることから、これからも本コラムで取り上げたいと思います。

 

 

参考文献

  1.  Yu Sunakawa et. al, Clinical colorectal cancer, 17(4), e741-e749, Dec 2018 https://pmc.carenet.com/?pmid=30219280#
  2. 宮本健志ら, 52回日本癌治療学会学術集会, 2014 http://archive.jsco.or.jp/detail.php?sess_id=3122
  3. 岡安勲、第100回日本病理学会宿題報告(平成23年度日本病理学賞) http://pathology.or.jp/ippan/pdf/okayasu.pdf
  4. Ishikawa H et al, Gut., 63(11):1755-9, Nov 2014. doi: 10.1136/gutjnl-2013-305827. Epub 2014 Jan 31 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24488498

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