がん免疫療法コラム
「がんゲノム医療」における「がん免疫療法」の位置づけ
前回、前々回とキイトルーダの適応拡大と遺伝子パネル検査の承認を通して「がんゲノム医療」の現在とこれからについ見て来ました。その中で分子標的薬を含め免疫チェックポイント阻害剤の開発や適応拡大が行われていく旨、述べました。今回は、遺伝子変異の多いがんに対し、なぜ免疫チェックポイント阻害剤が効果的なのかという説明に加え、「がんゲノム医療」における「がん免疫療法」の位置づけについて考えてみたいと思います。
■なぜ、遺伝子変異の多いがんに免疫チェックポイント阻害剤が効くのか?
マイクロサテライト不安定性(Vol.10参照)などの遺伝子変異(傷)の量とチェックポイント阻害薬の効果の間には、遺伝子変異(傷)の量が多いほど効きやすいという強い正の相関関係があることが報告されています1)。これはがん細胞の遺伝子に変異が多いほど、正常細胞との違いが明らかになるからだと考えられています。正常細胞との違いが大きいほど、免疫細胞ががん細胞を見分けることが容易になります。つまり、がん細胞を攻撃しやすくなるのです。ただし、これは大多数に当てはまるようですが、全てではないようです。
■「がんゲノム医療」における「がん免疫療法」
上記のように「遺伝子変異」と「がん免疫療法」は相性が良いため、「がんゲノム医療」における「がん免疫療法」への期待は非常に高いと言えます。「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」の報告書の中で「革新的な治療法としては、免疫チェックポイント阻害剤に代表される免疫療法があり、高齢者など今後、患者数の増加が想定される臓器の予備能が低下し、侵襲性の高い治療への適応が乏しい層への治療法としても期待が高い。(中略)新たな免疫療法に係る研究開発についても、世界の状況を確認しながら戦略的に取り組むべきである。2)」と記述されています。また、懇談会の上位に位置する「第3期がん対策推進基本計画(2018年3月)」3)の中でも他の薬物療法と区別して「がん免疫療法」が取り上げられています。このように「がん免疫療法」は「がんゲノム医療」の治療に関して中核を担う可能性が高く、その発展には欠かせない存在になってきています。
先般、オプジーボの薬価の高さが問題として取り上げられたことは、記憶に新しいところだと思います。遺伝子変異の有無によって効果が期待される患者さんを選び、使用することができれば医療費の抑制につながります。また、効果が期待できない患者さんに薬剤を使用することは、副作用の観点からも好ましくありません。できるだけ対象を絞った形での薬剤の使用は、使う側、使われる側にとって理想的です。遺伝子変異のようなマーカーを用いて使用する薬剤を選択する方法は、とても意味のあることだと言えます。
以上を鑑みると「遺伝子変異」と「がん免疫療法」が今後の「がんゲノム医療」発展のキーワードとなってくるのは間違いなさそうです。
参考文献
- JOHNS HOPKINS MEDICINE, Mews and Publications, December 20, 2017 https://www.hopkinsmedicine.org/news/media/releases/more_tumor_mutations_equals_higher_success_rate_with_cancer_immunotherapy_drugs
- 厚生労働省, がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書, p14, 2017 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000169236.pdf
- 厚生労働省, がん対策推進基本計画(第3期)<平成30年3月9日 閣議決定>https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html