がん免疫療法コラム
がんは遺伝するの!?〜遺伝性腫瘍について3〜
- はじめに
引き続き、遺伝性腫瘍について解説をしていきます。遺伝性腫瘍といっても様々な疾患が含まれています。その分類や各疾患について次回にわたり解説していきます。
- 家族性腫瘍の分類
次のような報告があります。遺伝子とがんの発生のしやすさの関係について三段階でに分類されています。
- Group 1…責任遺伝子が明確に同定されている。つまり、この場合は検査の結果によって医療方針を決めることができるような疾患になります。
家族性大腸腺腫症—APC,多発性内分泌腫瘍症MEN2—RET,網膜芽細胞腫—RB1,von Hippel-Lindou病—VHLなど。
- Group 2…責任遺伝子と特定のがんへの易罹患性との関連がかなりの程度明らかになっているが、研究的側面を残す疾患になります。
遺伝性非ポリポージス性大腸がん—MSH2, MLH1, PMS1, PMS2など,遺伝性乳がん卵巣がん—BRCA1/2,Li-Fraumeni症候群—p53など。
- Group 3…疾患と突然変異との関係が明らかでない場合、あるいは責任遺伝子との関係がごくわずかな家族でしか分かっていない疾患に相当します。
末梢血管拡張性運動失調症—ATM,家族性黒色腫—p16など。
すべての疾患を解説するには時間がかかりすぎますので、割愛しますが、代表的なものだけをピックアップして取り上げます。
- 遺伝性乳がんについて
遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC: Hereditary Breast and Ovarian Cancer)と呼ばれ、乳がん全体の5〜10%を占めています。BRCA1またはBRCA2という遺伝子に生まれつき遺伝子が正常に働かない変異(病的バリアント)があるため、一般の人より乳がんや卵巣がんが発症しやすくなっている状態です。
この遺伝子からできるタンパク質はDNAに生じた傷を修復する働きがあります。そのため、この遺伝子がうまく働かなくなると、遺伝子変異が取り除かれずに蓄積してしまい、がんを引き起こす原因になります。BRCA1/2に変異がある人すべてががんを発症するわけではありませんが、変異がない人よりも、発症するリスクは高くなることがわかっています。
このため遺伝学的検査によって遺伝性とわかった場合には、乳がんや卵巣がんが発症する前に乳房や卵巣を切除するリスク低減手術が行われることがあります。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが手術を受けたというニュースを聞かれた方も多いのではないでしょうか。
その他にも定期的な精密検査(造影乳房MRIなど)を使って早期に発見するサーベイランスなどが行われます。HBOCの人に発症したがんに特異的に効果が期待できる薬(PARP阻害剤)があり再発時の治療や再発予防などに用いられています。
- 最後に
遺伝性腫瘍には様々な疾患が含まれています。今回はその分類とその中で最も代表的な疾患である遺伝性乳がん・卵巣がんについて解説しました。
次回は遺伝性大腸癌の代表的な疾患である家族性大腸腺腫症(FAP:familial adenomatous polyposis)と遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC:Hereditary nonpolyposis colorectal cancer )について解説します。
出典:
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
J Clin Oncol 14:1730-6;1996