がん免疫療法コラム

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がん免疫療法における先進的なバイオマテリアルおよびドラッグデリバリーシステムについて⑤

前回の記事では、がん免疫療法におけるハイドロゲルバイオマテリアルについて説明してきました。今回の記事では、無機、その他のバイオマテリアルについて説明します。

無機バイオマテリアル
ここでは、無機物を利用したバイオマテリアルを紹介します。

まずは、シリカを用いたバイオマテリアルを紹介します。メソポーラスシリカは、加水分解及び縮合反応に関与する有機シラン前駆体を用いて調製することができます。さらに、これらの粒子の表面は、さまざまな医学的用途のために、さまざまな反応基で修飾することができることが分かっています。アミノ酸修飾シリカは、サイトカイン産生を促進することが報告されており、 Ca, Mg及びZnをドープしたシリカナノ球(MS-Ca、MS-Mg、MS-Zn)は、 Th 1型抗癌免疫応答を誘発する能力を示しています。また、球状シリカと非対称メソポーラスシリカのいずれも、免疫細胞を活性化し成熟させる可能性があることが判明しています。その他、珪酸塩は、日本脳炎ワクチン、 B型肝炎ウイルスDNAワクチン、および経口B型肝炎ワクチンなどのワクチン製剤においても、ワクチンの熱耐性およびウイルス阻害効果においても強力な役割を果たしていることがわかっています。メソポーラスなシリカテンプレートおよび中空粒子は、頑健なリンパ節標的化能および免疫細胞活性化能を示す抗原およびアジュバントを担持するように設計され、樹枝状メソポーラス有機シリカ中空球体の合成を初めて達成し、これは抗腫瘍免疫応答を誘発する有意な可能性が示されています。高アスペクト比を有するメソポーラスシリカロッド(MSR)が、樹状細胞を動員するためにマクロポーラス構造として自発的に集合し、 GM-CSFおよびCpGの存在下で腫瘍に対して液性および細胞性免疫応答を引き起こすことが報告されています。また、これらのMSRをポリエチレングリコールで修飾したところ、免疫細胞の活性化および浸潤を促進することが示されています。

続いて、酸化鉄を用いたナノ粒子について紹介します。酸化鉄ナノ粒子は、MRIの造影剤としてヒトへの使用が承認されており、その分解産物は身体の鉄貯蔵に有効であるため、酸化鉄ナノ粒子は癌の免疫療法および画像診断に同時に使用されることが増えています。

酸化鉄ナノ粒子は、熱ショック蛋白質70(Hsp 70)などの多くのカーゴで修飾でき、抗腫瘍免疫応答を改善することが知られています。これらのナノ粒子を利用することで、イメージングと治療の統合を実現する可能性が期待されています。

また金ナノ粒子は、レーザー光物理学的効果と免疫調節を組み合わせた効果的な治療法である光熱免疫療法に利用されています。

さらに、金ナノロッド、プルシアンブルーおよびNIR光増感剤のような多くの光熱生体材料が最近、がん免疫療法に使用されています。金ナノ粒子を標識したメラノーマ特異的T細胞は、免疫療法において免疫細胞を追跡するX線コンピュータ断層撮影により、非侵襲的に画像化することが出来る可能性が示唆されています。加えて、programmed death-ligand 1(αPD-L 1)抗体で修飾した後の免疫チェックポイント阻害に対する治療反応を予測することにも利用され、金ベースのナノ粒子は、抗腫瘍免疫応答を促進し、癌免疫療法に寄与するために、アジュバントと併用されることもあります。

 

その他
これまでに述べてきたバイオマテリアルの種類以外に分類されるものを紹介します。

直径1 mm未満のマイクロニードルを使用すれば、低侵襲かつ無痛的に皮膚を真皮まで貫通できることが分かっています。マイクロニードルは、低分子及びタンパク質の薬物及びワクチンの送達などの多くの局面で使用されているだけでなく、安価であり、さまざまな医療用途に便利とされています。また、真皮には多くのリンパ節があるため、マイクロニードルは抗原の取り込みおよび提示のために樹状細胞と直接接触することが出来ます。

実際に、抗PD-1抗体およびグルコースオキシダーゼを含む、pH感受性デキストランナノ粒子と結合した生体適合性ヒアルロン酸(HA)ベースのマイクロニードルを作製し、これによりマウスにおいて強力な免疫応答が誘発されたことが示されています。

さらに、可溶性マイクロニードルに加えて、中空マイクロニードルも開発されており、ワクチンデリバリーおよび免疫療法にも使用できることが分かっています。実際に、デジタル制御中空マイクロニードルシステムを用いて、合成長鎖ペプチドを含有するリポソームを注入し、疼痛および注入量を軽減できたことが示されています。

近年、癌細胞膜、ウイルスタンパク質、 DNAなどの生物由来ナノ生体材料が、新規癌ナノワクチンに使用され始めています。黒色腫細胞などの癌細胞膜内の腫瘍抗原及び細胞内粒子を様々なナノ粒子に負荷すると、特異的な細胞性及び液性応答が誘導され、腫瘍の増殖が阻止されることが、研究者らによって明らかにされています。その他、ウイルスタンパク質の自己集合を介して、ウイルス様ナノ粒子を形成させることも検討されています。これにより、各種モデルにおいてサイトカイン分泌を効果的に惹起し、腫瘍増殖を抑制することが示されました。

 

今回紹介してきたこれらの先進的なバイオマテリアルは、これまでのがん免疫療法の効果を向上させたり、新しいメカニズムによって免疫機構を介した腫瘍の抑制効果を発揮したりする技術に利用されています。しかしながら、ヒトでの検証結果は限られており、これからの研究開発に期待されています。今後は、腫瘍に対する効果をもつ薬剤そのものの開発だけでなく、バイオマテリアルについても研究が進められ、相乗的な効果を発揮できるようながん免疫療法が開発されていくことが予想されます。

 

・参考文献
1. Acta Pharmacol Sin. 2020 Jul; 41(7): 911–927.
2. Nat Rev Drug Discov. 2019 Mar; 18(3): 175–196.
3. 膜(MEMBRANE),34(6),328­335(2009)
4. Drug Delivery System 28― 3, 2013
5. J Biomed Nanotechnol. 2018;14:98–113.
6. Biomaterials. 2018;164:80–97.
7. 森北出版「化学辞典(第2版)」
8. 第 103 回 日本病理学会総会 宿題報告(平成 26 年度日本病理学賞)「マクロファージの活性化と病態」

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