がん免疫療法コラム

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光免疫療法はがん免疫療法の新たな光となりうるか? 《Part.3》 

今回が光免疫療法の最終回です。作用ポイントのまとめを中心に臨床試験の成績についても見て行きます。作用ポイントの説明で「がん免疫サイクル」を用いますが、これについても少し説明を加えたいと思います。

 

◆がん免疫サイクルと作用ポイント

□がん免疫サイクルとネガティブフィードバック

がん免疫が機能しているということは、がんに対する免疫応答、つまり「がん免疫サイクル」が回り続けることを意味し、その結果としてT細胞が活性化されます。このサイクルは以下の7ステップに分けられています(図1参照)。①がん細胞からがん抗原が放出され、②そのがん抗原を樹状細胞が捕獲して、T細胞に提示します。③この樹状細胞の抗原提示によってT細胞がプライミング(免疫系を賦活するための予備刺激)および活性化されます。次に、④T細胞はがんへと遊走し、⑤T細胞ががんへ入り込みます(浸潤)。⑥そこでT細胞はがん細胞の存在を認識し、⑦がん細胞を破壊します。これが一連のサイクルであり、このような過程を通して体内で発現したがん細胞が排除されます。

しかし、このサイクルに対して、動きを止めるためのネガティブフィードバック機構も同時に働きます。免疫チェックポイントや制御性T細胞を介して、T細胞の活性化が減弱され、過度に抑制されるとサイクルは止まります。このネガティブフィードバック機構は免疫が過剰に亢進しないように制御するためのものと考えられていますが、がん細胞がこの機構を悪用する場合があります。そのような状況下では、免疫チェックポイント阻害剤や光免疫療法のターゲットである制御性T細胞を破壊するなど、がん免疫サイクルを停止しないようにする必要があります。

 

□作用ポイント

光免疫療法には、直接的な抗腫瘍効果と免疫を使った抗腫瘍効果の2つが存在することになります。がん免疫サイクル(図1)を使って作用ポイントを確認してみましょう。

直接的な抗腫瘍効果により「がん細胞の破壊」が起こり(⑦)、そして、がん細胞の破壊によりがん抗原が放出されます(①)。次に、免疫を使った抗腫瘍効果として、制御性T細胞の破壊により「T細胞のプライミングと活性化」が起こります(③)。

これらの2つの効果は今のところ、独立した関係です。がん細胞破壊による免疫の活性化と制御性T細胞の破壊による免疫の活性化は分けて考えます。この2つの方法のうち、最初の方法の開発が先行していますが、いずれは後者との同時併用が考えられています。


がん免疫サイクルと期待される作用ポイントの図

図1 がん免疫サイクルと期待される作用ポイント(文献を参考に作成)

 

臨床試験成績

昨年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)にて、再発転移性頭頸部扁平上皮がんを対象とした第Ⅱa相試験の結果が報告されました。手術、放射線、抗がん剤(プラチナ製剤)では十分な効果が見込めない患者28名に対して、奏効率28%(8/28)、無増悪生存期間5.7ヵ月(中央値)という結果でした。

また、重篤な有害事象として投与部位の疼痛、腫瘍出血および腫脹などが認められましたが、用量の制限となる毒性や皮膚光線過敏症(日光によって引き起こされる免疫が関与する皮膚の反応)は観察されなかったことから、安全であり、忍容性に優れていたと結論付けられています。謳い文句通り、安全性は高そうな印象です。有効性については、卓越した成績かと問われれば評価が分かれるところかも知れませんが、数字的には承認審査に十分耐えられるレベルの成績だと思います。

 

最後に、本コラムのタイトルである「光免疫療法はがん免疫療法の新たな光になりうるか」という問いについてですが、個人的な見解で恐縮ですが、本療法が免疫療法を称する限り、免疫への作用がどの程度あるか、そして、その作用が効果としてどの程度現れてくるのかがその答えになると思います。例として抗腫瘍効果の持続、最終的には生存期間の有意な延長などが考えられますが、第Ⅲ相試験が始まったばかりであり、現時点ではそのような報告に至る段階にはないと思いますので、今後の展開に期待したいところです。

頭頚部扁平上皮がんを対象とした第Ⅲ相臨床試験が本邦を含む国際共同治験として既に開始されており、また、食道がんに対する第Ⅰ相臨床試験も先月から開始されています。これらの結果が報告されるなど動きがありましたら続報をお伝えします。

 

参考文献

  • がん光免疫療法の登場-手術や抗がん剤、放射線ではない画期的治療法, 永山悦子 小林久隆(協力), 青灯社
  • Mugendai ホームページ, 近赤外線でがん細胞が1日で消滅、転移したがんも治す――米国立がん研究所の日本人研究者が開発した驚きの治療とは
    https://www.mugendai-web.jp/archives/6080

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