がん免疫療法コラム

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がん免疫療法における先進的なバイオマテリアルおよびドラッグデリバリーシステムについて③

・概要
前回の記事では、がん免疫療法におけるリポソームの外側の修飾、ナノ粒子について説明してきました。今回の記事では、ポリマー系バイオマテリアルについて説明します。

・ポリマー系生体材料に関して
ポリマー系生体材料のうち、ミセルと呼ばれるものがあります。ある濃度以上で界面活性剤分子が集まってつくる親液コロイド(セッケン溶液など)集合体をミセルと言います。ミセルの形や性質にはいろいろありますが、界面活性剤水溶液中にはある濃度以上では分子またはイオンの集合体としてのミセルが存在し、この濃度を臨界ミセル濃度と言います。

臨界ミセル濃度に達したとき、両親媒性高分子はナノサイズの粒子、すなわちミセルとして振舞います。粒子の大きさがより小さく、中性電荷を帯びていると、流入領域のリンパ節に容易に到達し、全身への拡散が促進される可能性が示唆されています。この可能性から、ステアリン酸でポリエチレンイミン(PSA)‐2 kを修飾することにより両親媒性分子(PEI)を産生したところ、PSAミセルは全身領域よりもむしろ流入領域リンパ節に選択的に蓄積しました。さらに、PSAミセルはCCR-7の分泌及び流入領域リンパ節におけるCD 86及びMHC-IIの発現を刺激し、Trp 2を負荷したPSAミセルは有意な抗腫瘍効果を示しました。つまり、PSAミセルは腫瘍部位選択的に作用することが確認されています。

また、透過性亢進および保持作用により、腫瘍部位に送達されるポリエチレングリコールポリL-アルギニン系ミセルは、マクロファージを標的とし、腫瘍部位での一酸化窒素産生を促進することにより、腫瘍の進行を抑制することが示されています。他の腫瘍関連マクロファージ(TAM)標的ミセルとして、ガラクトース亜鉛プロトポルフィリンIX(ZnPP)グラフト化ポリL-リジン‐b‐ポリエチレングリコールポリペプチドミセルが報告されており、これらのミセルは活性酸素種(ROS)を産生することにより、TAMをM1マクロファージに再分極できたことが確認されています。すなわち、腫瘍を増殖させることに寄与するM2マクロファージではなく、M1マクロファージに傾けることで、腫瘍の増殖を抑制する方向に寄与する可能性が示唆されました。

その他のミセルとして、クルクミンを負荷したもの、ポリイオン複合体(PIC)ミセル、腫瘍関連抗原SART3、GM-CSFおよびCD40 Lをコードする遺伝子を搭載したポリプレックスミセル、Trp 2およびCpGを搭載したポリマハイブリッドミセル(PHM)、OVAおよびSTAT 3 siRNAを共担持したポリエチレングリコール-b-ポリL-リジン-b-ポリL-ロイシン(PEG-PLL-PLLeu)ミセル、OVAおよびToll様受容体7アゴニストCL 264で修飾したカルボキシル化ミセルや、miRNA阻害剤を含んだミセル等、様々な種類のミセルが開発され、何れも腫瘍免疫系を介して毒性を低減させたり、腫瘍特異的に作用するよう設計されていたり、抗腫瘍効果が増強されていることが確認されています。

次回の記事では、ハイドロゲルバイオマテリアルについて紹介していきます。

 

・参考文献
1. Acta Pharmacol Sin. 2020 Jul; 41(7): 911–927.
2. Nat Rev Drug Discov. 2019 Mar; 18(3): 175–196.
3. 膜(MEMBRANE),34(6),328­335(2009)
4. Drug Delivery System 28― 3, 2013
5. J Biomed Nanotechnol. 2018;14:98–113.
6. Biomaterials. 2018;164:80–97.
7. 森北出版「化学辞典(第2版)」
8. 第 103 回 日本病理学会総会 宿題報告(平成 26 年度日本病理学賞)「マクロファージの活性化と病態」

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