がん免疫療法コラム
がんを引き起こすウイルス Part.1
がんを引き起こすウイルス(1) Vol.70
感染が原因でがんが発生することもあります。
細菌が原因となることもありますが(本コラムVol.64)、比較的多いのはウイルスが原因のがんです。今回はがんを引き起こすウイルスについて説明します。
がんの原因となるウイルス
がんの原因となるウイルスには
・EBウイルス (Epstein-Barr virus; EPV) ⇨ 悪性リンパ腫・上咽喉癌・平滑筋肉腫・唾液腺癌など
・ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus type; HPV)⇨ 子宮頸がん
・B型肝炎ウイルス (Hepatitis B virus; HBV) ⇨ 肝細胞がん
・C型肝炎ウイルス (Hepatitis C virus; HCV) ⇨ 肝細胞がん
・ヒトTリンパ好性ウイルス1型 (HTLV-1) ⇨ 成人T細胞白血病
などがあります。⇨の先がそれぞれのウイルスで引き起こされるがんです。
これらのウイルスに共通して言えることは、DNAウイルスやレトロウイルスが多い点です。
EPVとHPV、HBVはDNAウイルスです。HTLV-1はレトロウイルスです。
DNAウイルス、レトロウイルスとは?
DNAウイルスは、ウイルスの遺伝情報がDNA上に乗っているウイルスです。これ以外にウイルスの遺伝情報がRNA上に乗っているRNAウイルスがあり、これはRNAウイルスと呼ばれます。
ヒトをはじめとするほとんどの生物では遺伝情報はDNA上に保持されています。これはDNAの方が化学的に安定で、遺伝情報を確実に保持する上ではRNAよりDNAの方が都合がよいからです。
もっとも、生体内で酵素その他のタンパク質を合成する際には、DNAの情報が直接使われるのではなく、いったん、DNAの情報がRNAに転写されます。つまり、情報としてはRNAさえあればよいという面もあります。
このため、ウイルスには、遺伝情報をDNAとして持つDNAウイルスとRNAとして持つRNAウイルスがあるわけです。
なお、レトロウイルスはRNAウイルスですが、RNAの遺伝情報をDNAに転写してこれを宿主細胞のDNAに組み込むウイルスです。
通常、遺伝情報はDNA→RNAと転写されるところを、DNA←RNAと逆方向に転写するため「レトロ」ウイルスと呼ばれます。
なぜ「がんウイルス」にはDNAウイルスやレトロウイルスが多いのか?
ウイルスががんを引き起こすメカニズムにはさまざまなものがあります。ただ、ウイルス は基本的に細胞の中に入って増殖します。この際、DNAウイルスは感染した細胞の核内で、レトロウイルスは感染した細胞のDNAを介して増殖します。
そして、増殖するために宿主細胞の増殖制御に影響を及ぼします。
非常に単純化して言うと、ウイルスが増殖するためには、宿主細胞のDNAが活発に複製されたりする方が好都合なわけです。
その結果、細胞の増殖制御がなんらかの形で異常をきたしてしまい、がんになるのです。このような理由で、DNAウイルスやレトロウイルスのなかには、がんを引き起こすものがいるわけです。
まとめ
がんウイルスは、感染した細胞内で自己増殖することなく、安定的に潜伏感染・慢性感染を継続することもあります。また、最近、話題のコロナウイルスやインフルエンザウイルスは通常のRNAウイルスであり、がんを引き起こすことはないと考えられます。つまり、ウイルスに感染してもがんになるケースは限られています。それでもがんの1割以上がウイルス感染と関係しています。
次回はウイルスとがんとの関係をもう少し深く考えてみたいと思います。
参考文献
国立がん研究センター 「がんの発生要因」(2019年7月24日)
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/factor.html
日経メディカル「インタビュー◎ウイルスの構造とその意味」(2020年3月30日)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202003/564951.html
小林治「癌発現に関わる感染症についての新知見」杏林医会誌 45 巻 1 号 25~30 2014 年 3 月
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyorinmed/45/1/45_25/_pdfhikioko