サイトカインの多様性と治療への応用
前回、サイトカインの基本的な働きについて確認しました。いくつかのサイトカインはその働きから医薬品として用いられています。今回は、そのサイトカインが医薬品としてどのように応用されているのかを見て行きたいと思います。 サイト […]
がん免疫療法コラム
サイトカインストーム Vol.68
サイトカインストーム という現象があります。
がんの進行によって生じる現象でもあり、最近話題の新型コロナウイルスの重症化とも関係しています。
今回はサイトカインストームについて解説します。
サイトカインは、一般的には、細胞間相互作用に関わる低分子タンパク質です。細胞から放出され、他の細胞の機能や働きに影響を及ぼします。
サイトカインにはさまざまな種類があります(表1)。サイトカインとは特定の物質の名前ではなく、さまざまな物質の総称なのです。
物質名 |
働 き |
インターロイキン | 主にリンパ球や食細胞から分泌されます。現在では30種類以上存在す ることが知られており、IL1など「IL」が先頭に付きます。免疫細胞の増 殖、分化、活性化、細胞死などを起こすように働きます。 |
ケモカイン | 免疫細胞の移動(遊走)に関わっており、50種類以上の存在が確認され ています。 |
インターフェロン | ウイルスの侵入や腫瘍細胞に反応して分泌され、ウイルスや腫瘍細胞 の増殖を抑制します。抗ウイルス薬や抗がん剤などの医薬品として利 用されています。 |
造血因子 (コロニー刺激因子) |
血球は多能性幹細胞(造血幹細胞)から分化し、増殖しますが、この血 球の分化や増殖を促進します。顆粒球へ分化させるG-CSFや、単球へ 分化させるM-CSFなどがあります。 |
細胞増殖因子 | 特定の細胞の増殖や分化を促進します。上皮成長因子(EGF)、繊維芽細 胞成長因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、腫瘍増殖因子(TGF)などがあ ります。 |
細胞壊死因子 | マクロファージから産生されます。腫瘍細胞をネクローシス(壊死)やア ポトーシス(自死)に導く、また炎症反応にも関与します。TNFと略され、 αとβがあります。 |
『サイトカインの多様性と治療への応用』でも解説しましたが、サイトカインは、特に免疫細胞間の相互作用に大きく関わり、「がん」や「病原体」などとの戦いに役立っています。
前回、サイトカインの基本的な働きについて確認しました。いくつかのサイトカインはその働きから医薬品として用いられています。今回は、そのサイトカインが医薬品としてどのように応用されているのかを見て行きたいと思います。 サイト […]
いずれも1つの細胞から放出される量は極めて微量です。
ただ、働きかけを受けた細胞が、さらにサイトカインを放出して他の細胞に働きかけるため、多くの場合、非常に大きな結果をもたらします。
1918〜1919年に流行したスペイン風邪では、死者の数は5千万〜1億人とされていますが、中でも健康な若者の死者が多かったとされています。
また、今回の新型コロナウイルス感染症では、ある段階で、快方に向かうケースと急速に重症化するケースに分かれると言われています。
こうした経過に関わっていると見られるのが、サイトカインストームです。
スペイン風邪の場合も、新型コロナウイルスの場合も、ウイルスそのものの感染より、サイトカインストームが重症化をもたらすと見られているのです。
それでは、サイトカインストームとはどのような現象なのでしょうか?
実はサイトカインには、「炎症性サイトカイン」と「抗炎症性サイトカイン」があります。
これらはアクセルとブレーキの関係になっています。一方が炎症を引き起こし、他方がそれを抑えています。
通常は、両者のバランスが取れており、不都合が起きないように制御されています。ところが、このアクセルとブレーキのバランスが崩れることがあります。
前述のように、サイトカインは微量でも大きな結果をもたらします。この結果、炎症性サイトカインが過剰に血中に放出されて自己免疫疾患などを引き起こしてしまうことになるのです。
これがサイトカインストームです。
サイトカインストームは、がんではがん悪液質の原因となっていると考えられています。これはVol.26でも解説したように、がん特有の体重減少などをもたらします。
がん悪液質では、代謝異常も伴っており、浮腫、胸水・腹水などが発生します。
新型コロナウイルスでは、間質性肺炎が起こることが知られています。これは肺でガス交換(血液中に酸素を取り込み二酸化炭素を排出する)を担当する肺胞と肺胞の間の部分(間質)や肺胞の壁、血管壁などで炎症が起こる現象で、サイトカインストームがその原因として関わっていると見られています。
こうしたがん悪液質や重度の間質性肺炎の治療は非常に困難です。ただ、炎症性サイトカインの量を低減するさまざまな手法に効果が期待されています。
参考文献
独立行政法人 科学技術振興機構ホームページ, アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術, 免疫系におけるサイトカインの役割 https://www.jst.go.jp/crest/immunesystem/result/05.html
村田興, サイトカインと疾患, 長崎大学 薬学部 平成13年度 長崎大学公開講座「くすりの科学」http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/openseminar/data/pharma/010913.pdf
公益社団法人 日本薬学会ホームページ, サイトカイン https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%B3
実験医学別冊 もっとよくわかる!免疫学, 河本宏, 羊土社
平野俊夫、村上正晃 https://www.qst.go.jp/site/press/40364.htm