がん免疫療法コラム
多様な才能を持つまとめ役 ヘルパーT細胞 《Part.2》
前回は「ヘルパーT細胞(以下、Th細胞)」の「細胞性免疫」に対する働きを説明しました。今回は「液性免疫」について見て行きたいと思います。また、このヘルパーT細胞、研究が進むにつれてどんどんと仲間の数が増えています。その部分についても触れたいと思います。
■「液性免疫」をヘルプ
前回お話しましたように、「ヘルパーT細胞」は「B細胞」を活性化して「抗体」を産生させます。基本的に「マクロファージ」の場合と同じで、自分が出会った異物と同じ異物を食べた「B細胞」を活性化します。
「B細胞」は自身が作る「抗体」を普段はレセプターとして使用するため、細胞の表面に「抗体」を出しています。これを使って異物を捕まえて、体内に取り込みます。さらに「B細胞」は「樹状細胞」のように抗原の提示もできます。
そして、この抗原を「ヘルパーT細胞」が感知すると、その「抗原」を持つ「B細胞」を活性化します。この時の活性化は、言ってみれば「抗体」を増産するように、「ヘルパーT細胞」が「B細胞」に発注するような意味合いを持ちます。「B細胞」の作る「抗体」を増産させ、それを体外に分泌させるように促します。こうして分泌された「抗体」が異物に対して攻撃を仕掛けます。
■Th細胞の仲間とその関係
「Th細胞」にはたくさんの仲間がいます。Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞、Thf細胞(濾胞T細胞)、iTreg(induced Treg[制御性T細胞])などの種類が知られています。そのうちの最初のTh1細胞、Th2細胞の2つをここでは紹介します。
◆Th1 細胞
「Th1細胞」はサルモネラなどの細胞内に寄生して増殖する細菌「細胞内寄生細菌」や「ウィルス」に対する感染防御を得意とします。そのために大きく以下の3つのことを行いますが、「食細胞」や「キラーT細胞」による異物の排除が中心となっているので、主に「細胞性免疫」を促進します。
1. マクロファージやナチュラルキラー細胞などの食細胞の活性化
2. キラーT細胞の活性化
3. B細胞の活性化
◆Th2細胞
「Th2細胞」は「寄生虫」に対して働く免疫細胞です。大きく以下の2つのことを行いますが、「B細胞」に働きかけ「抗体」を産生させるので、主に「液性免疫」を促進します。
また、「Th2細胞」は好酸球を活性化します。好酸球は色々な炎症物質を含んでおり、寄生虫に取りついて炎症物質を寄生虫に向けて放出します。
1. B細胞の活性化
2. 好酸球などの活性化
◆Th1/Th2バランス
このように「Th1 細胞」が「細胞性免疫」を、「Th2細胞」が「液性免疫」を担当しています。言わば、お互いを補い合いあっている仲です。しかし、「Th1 細胞」は「Th2細胞」の分化を抑制するサイトカイン(INFγ)を出し、逆に「Th2細胞」は「Th1 細胞」の分化を抑制するサイトカイン(IL-4)を出します。つまり、互いをけん制する仲でもあるのです。
「Th1 細胞」と「Th2細胞」については、お互いを制御しながらバランスを保っていると考えられており、以前はその関係を「Th1/Th2バランス」と呼んでいました。このバランスがどちらかに傾くことにより、炎症やアレルギーなどの疾患が生じると説明されていました。しかし、先述の「Th17 細胞」など新たな種類の「Th細胞」が発見されたことや、「B細胞」の活性化には主に「Thf細胞」が関与していると考えられていることなどから、最近では「Th1/Th2バランス」を用いた図式で語られることはなくなっています。
「Th細胞」の役割は多様であるため、そう単純には割り切れないのはむしろ当然かも知れません。この部分に関しては、今後研究が進み、全容が明らかになるのを待つことにしましょう。
参考文献
- 実験医学別冊 もっとよくわかる!免疫学, 河本宏, 羊土社
- 新しい免疫入門, 審良静夫/黒崎知博, 講談社