がん免疫療法コラム
自然免疫系と獲得免疫系のキラー細胞 【相補的関係】
前回、前々回とT細胞について見て来ましたが、キラーT細胞のように感染した細胞やがん細胞などを退治してくれる免疫細胞をキラー細胞と言います。キラー細胞には「生まれながらの殺し屋」の異名をとる、あのナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞)などが含まれます。キラーT細胞もNK細胞も既にこのコラムに登場していますので、ご存じの方も多いかと思います。がん免疫編集の「排除相」では両者の活躍によって「がん」が排除されています。しかし、これらのキラー細胞は異なったメカニズムで敵を感知していて、お互いを補完し合っている存在であることはご存じでしょうか。
今回はこの点に注目して、同じキラー細胞同士でどこが異なっているのか、そしてどのように補い合っているかについて見て行きたいと思います。
◆キラーT細胞(獲得免疫系)
キラーT細胞は、「がん細胞」の表面に現れる「がん抗原」と呼ばれる「がん」特有の物質を攻撃の「サイン」としています。しかし、キラーT細胞がその「サイン」を探し出すのではなく、樹状細胞などが「がん抗原」を感知し、「獲得免疫」が動き出ことによってキラーT細胞に攻撃の指令を伝えます。
ところが、Vol.30でもお伝えしましたが、この「がん細胞」はこの「サイン」を隠すことが出来ます。このような「がん」の策略によって「獲得免疫」が始動できず、結果としてキラーT細胞は「がん抗原を発現していないがん細胞」を攻撃できないのです。
◆NK細胞(自然免疫系)
ところが、NK細胞はこの「サイン」を隠した「がん細胞」、つまり「がん抗原を発現していないがん細胞」を攻撃することができるのです。実は、NK細胞は「がん抗原を発現しているがん細胞」と「がん抗原を発現していないがん細胞」の両方を退治することができます。ただし、「がん抗原を発現しているがん細胞」については見逃してしまうこともあるようです。
では、なぜNK細胞は「がん抗原を発現していないがん細胞」を攻撃することができるのでしょうか?
その謎を解く鍵となるのは、NK細胞には正常細胞を攻撃しないというブレーキがかけられているという点です。正常な細胞は「攻撃しないで」という「サイン」として、細胞の表面に「抗原」を出しています。これがNK細胞に対するブレーキとなり、この「サイン」を出している細胞に対しては攻撃しないようになっています。
ところが、「抗原」を隠してしまっている「がん細胞」では、この「サイン」がありません。そこでNK細胞は、「サイン」がないことを目印として攻撃を仕掛けます。つまり、キラーT細胞の攻撃をかわすために「がん細胞」は「サイン」を隠しますが、この策略を逆手に取った形で、NK細胞は「がん細胞」を排除するのです。
以上をまとめると、キラーT細胞は「がん抗原を発現しているがん細胞」を攻撃しますが、「がん抗原を発現していないがん細胞」は攻撃できません。これを補ってくれるのがNK細胞です。反対にNK細胞は「がん抗原を発現しているがん細胞」も攻撃しますが、時にこれを見逃してしまうことがあります。今度はキラーT細胞がこれを補っていると言えます。自然免疫系と獲得免疫系の免疫細胞はお互いに協力し合っていますが、キラー細胞に限った場合でも、両者を補い合う形で「がん細胞」を退治しています。
参考文献
- 実験医学別冊 もっとよくはわかる!免疫学, 河本宏, 2011
- がん治療新時代WEB, がん免疫療法で新たに注目される「NK(ナチュラルキラー)細胞」 http://gan-mag.com/immunooncology/2885.html