がん免疫療法コラム
腫瘍関連マクロファージの親戚、骨髄由来免疫抑制細胞
前回、腫瘍関連マクロファージ(以下、TAM)が「がん微小環境」において「がん」の増殖を促進するとお伝えしました。しかし、残念なことに自然免疫系の細胞の中で「がん」の増殖を助ける働きをする細胞はマクロファージだけではないのです。本コラムでも何度か登場していますが、骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell 以下、MDSC)がその1つです。今回はこの「MDSC」にスポットを当ててみたいと思います。
■MDSCとは
「MDSC」は骨髄中に存在し、顆粒球、樹状細胞およびマクロファージなどに分化する前の未熟な状態にあり(前駆体)、その分化度もそれぞれが異なっています。「MDSC」とは、このような不均一で未熟な細胞の集団のことを言います。
「MDSC」は「がん」や「炎症」が発現することによって、血中やリンパ節などの2次リンパ組織、そして「がん組織」で増加することが知られています。最近の研究によると、「がん細胞」が 「MDSC」 を骨髄から「がん細胞」の周辺に引き寄せていることが示唆されています。
また、様々な物質を放出することで、血管新生や浸潤および転移などを促進します。特に免疫抑制に関しては重要な部分を担い、その免疫抑制の強さは制御性T細胞(以下、Treg)と双璧をなすと言われています。
それでは次に、「MDSC」がどのように「免疫」の抑制を行っているのかを見て行きましょう。
■MDSCによる免疫抑制
免疫細胞に結合する直接的な方法と物質や細胞を介した間接的な方法があります。
◆直接的な免疫抑制
MDSCの表面にはPD-L1(PD-1と結合)やB7-1,2(CTLA-4と結合)などの「免疫チェックポイント分子」が発現しており、T細胞だけではなく、B細胞、NK細胞およびNKT細胞に発現するPD-1やCTLA-4と結合して、これらの免疫細胞の働きを直接阻害します。
◆間接的な免疫抑制
□代謝物の低下による免疫抑制
「がん微小環境」において、T細胞の活性化に必要なトリプトファン、アルギニンおよびシステインといったアミノ酸を低下させます。トリプトファン、アルギニンについては酵素を産生して分解し、システインについてはこれを取り込んでしまい、周囲のシステインの濃度を低下させます。このような働きにより、間接的にT細胞の増殖や活性化を阻害します。
□Tregを使った免疫抑制
「がん微小環境」の中にTregを呼び寄せ、そして引き入れることで「免疫」を抑制します。ケモカインを産生し、これを使ってTregを「がん微小環境」へと導きます。また、「がん組織」もケモカインを作ってTregを誘導するので(Vol.33)、「がん微小環境」でのTregの数が通常の数十倍もあると言われるのも頷けます。
以上のように免疫細胞を直接阻害する、または、T細胞の活性化に必要な代謝物を低下させ、過酷な環境を作りだすことによって「免疫」を抑制します。さらには「Treg」を呼び寄せることによって、T細胞が「がん細胞」に近づくことさえ難しい状態を作り出しています。
Vol32,33の「Treg」とVol.37の「TAM」に続き、主要な免疫抑制細胞として「MDSC」を見てきました。これらの免疫抑制細胞同士では互いに密接な関係が築かれており、「Treg」とは協力関係に、先述の通り「MDSC」はマクロファージの前駆体であることから「TAM」とは親戚のような関係にあります。一部の「MDSC」は「TAM」に変化するとした報告もあり、切っても切れない強い関係にあります。そして、このような関係が「がん」の進展を支えています。裏を返すと「がん」と闘うには、これらの免疫抑制細胞の働きを抑制する必要があります。あの手この手で抑制をかけてきますので、こちらも様々な治療法を駆使して対抗する必要があり、これが今後の重要な研究課題と言えます。
参考文献
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- 実験医学増刊 がんは免疫系をいかに抑制するか,Vol.36 No.9, p1463-1467, 2018
- 実験医学別冊 もっとよくわかる!免疫学, 河本宏, 2011