がん免疫療法コラム

シンボルマーク
パターン
パターン

制御性T細胞とがん微小環境 【働きとその抑制】  《Part.2》 

前回ご説明したように制御性T細胞(以下、Treg)は、自己に対して「免疫」の働きが行き過ぎてしまった場合に、その活性化された「免疫」をストップする役目を担っています。実は、これには「免疫」のブレーキ役である免疫チェックポイント分子が関わっています。まずは、Tregがどのように「免疫」を抑制するのか、そのメカニズムについて見て行きましょう。

◆一般的なTregの働き

上記の通り、Tregの働きには免疫チェックポイント分子が深く関わっています。「細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)」という免疫チェックポイント分子がTregの表面には常に現れており、これが樹状細胞上にある分子と結合します。これによりキラーT細胞やヘルパーT細胞と樹状細胞との結合が邪魔されてしまうため、「免疫」の働きが弱まります。単純にTregが樹状細胞と結合してしまえば、物理的にキラーT細胞やヘルパーT細胞が樹状細胞と結合する場所が無くなってしまうという、椅子取りゲームのような仕組みです。また、TregはCTLA-4を介して樹状細胞と結合することによって、樹状細胞自体の働きにも抑制をかけることが知られています。

◆がん微小環境内でのTregの働き

「がん微小環境」下ではTregが他の部位に比べて、高頻度に存在することが知られています。「がん組織」がケモカインという物質を作り、その物質がTregを「がん組織」へと誘導します。このケモカインの働きにより、Tregが「がん組織」内に集まってきます。先のVol.32で説明しましたが、「がん」がTregを呼び寄せるパターンです。
上記のように、誘導されたTregはCTLA-4を介してキラーT細胞やヘルパーT細胞と樹状細胞との結合阻害や樹状細胞の働きを抑制しますが、その他にTGF-β、IL-10などの抑制性サイトカインやパーフォリン、グランザイムなどの細胞傷害性物質等を産生することにより、キラーT細胞やヘルパーT細胞の活性化抑制や破壊することで「免疫」を抑制します。

◆Tregを抑制する薬剤

「免疫」のブレーキ役であるTregの働きを抑えれば、「免疫」は活性化されます。Tregを抑制する薬剤として既に知られているもがありますので、見て行きましょう。薬剤は以下のように大きく3通りに分けられます。

□細胞傷害性の抗がん剤

1つは細胞傷害性の抗がん剤によるTregの抑制です。シクロフォスファミドやジェムシタビンなどは、Tregなどの免疫抑制細胞を減らすことが認められています。このような作用を利用して、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用などが試みられています。

□免疫チェックポイント阻害剤

2つ目が免疫チェックポイント阻害剤です。「がん組織」内に存在するTregでは、CTLA-4の発現が末梢血に存在するTregと比較して非常に多いことがわかっています。抗CTLA-4抗体(ヤーボイなど)には、Tregの機能を低下させる、または、抗体依存性細胞障害というナチュラルキラー細胞やマクロファージなどの免疫細胞に「がん組織」内のTregの存在を知らせることにより、免疫細胞がTregを除去するのを手助けする効果があります。これらの働きにより抗腫瘍効果が期待できます。

□その他、Tregの活性化などを抑制する薬剤

3つ目がそれ以外ということになります。以下に列挙しますので、さっと眺めておいて下さい。

  • Tregの「がん細胞」への浸潤を抑制:分子標的薬(ソラフェニブやスニチニブなど)
  • Tregを呼び寄せる作用を阻害:抗CCケモカイン受容体4(CCR4)抗体薬
  • Treg の活性化を阻害:
    インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤
    非ステロイド性抗炎症薬(プロスタグランジンE2[PGE2]の抑制:アスピリンなど)
  • Tregの破壊による阻害:光免疫療法(Vol.20

 

以上のように、Tregについて理解が深まることによってTregの働きの抑制方法の研究も発展しています。治療に直結する領域であるため、その研究の発展に大いに期待したいところです。

 

参考文献

  • 岸本忠光, 中嶋彰, 第2章 制御性T細胞の物語, 免疫が挑むがんと難病, 講談
  • 実験医学増刊 がん免疫療法 腫瘍免疫学の最新知見から治療法のアップデートまで, Vol.34 No.12,  p106-112, Vo1.34 No.12 ,2016
  • 実験医学増刊 がん免疫療法 腫瘍免疫学の最新知見から治療法のアップデートまで, Vol.34 No.12,  p113-121, Vo1.34 No.12 ,2016
  • がん免疫.jp, 制御性T細胞 http://www.immunooncology.jp/medical/visualization/07.html
  • がん免疫.jp, CTLA-4阻害とPD-1阻害  http://www.immunooncology.jp/medical/visualization/05.html

資料請求・お問い合わせ

専任のスタッフが丁寧に対応いたします。ご不明な点などございましたら、まずはお気軽にご相談ください。

この情報をシェアする
シンボルマーク

よく読まれている記事

TOP