がん免疫療法コラム
「免疫療法+放射線」 アブスコパル効果の可能性

アブスコパル効果とは
放射線治療は、基本的には照射した部位のがんを小さくする局所治療です。ところが、ごくまれに、放射線を当てていない離れた場所の腫瘍まで縮小することがあります。この現象が「アブスコパル効果」です。アブスコパル効果は1953年に提唱された概念であり、古くから知られてはいるものの、実際には散発的な症例報告が中心で、長いあいだ臨床的な意義ははっきりしない現象と考えられてきました。
免疫療法の進展によって注目されるアブスコパル効果
近年、このアブスコパル効果が再び注目されている背景には、免疫療法の進歩があります。放射線は単にがん細胞を壊すだけでなく、がん細胞由来の抗原や危険シグナルを放出させ、免疫系に「ここに敵がいる」と知らせる働きも持つと考えられています。さらに、腫瘍細胞での抗原提示や、細胞障害性T細胞の働きを後押しするような免疫学的変化も起こりうるため、照射部位をきっかけに全身性の抗腫瘍免疫が誘導される可能性があります。近年のレビューでも、放射線と免疫治療の相乗効果を支持する臨床データが多く示されているとまとめられています。
免疫療法との併用で期待されること
2022年のレビューでは、アブスコパル効果は放射線による免疫系への作用を介した全身性反応として考察されており、腎細胞がん、肝細胞がん、リンパ腫、悪性黒色腫などさまざまながん種で治療効果が報告されています。また、免疫チェックポイント阻害薬と放射線治療は、抗腫瘍免疫と協調して働く可能性があり、この点が両者併用の大きなメリットです。このことから、放射線が免疫反応のきっかけをつくり、免疫療法がその反応を持続・増強することで、局所治療にとどまらない効果が期待されています。
アブスコパル効果とがん免疫療法の課題
アブスコパル効果は現時点でがん免疫療法と放射線療法の有効性を決定づけるものではありません。2015年のレビューでは、検索対象となった文献の中で、臨床データは十分に揃ってはおらず、線量、分割方法、反応までの期間などにも大きなばらつきがあることが示されています。結論としても、放射線量設定、治療タイミング、患者選択、有害事象といった課題を解決しなければ、臨床的に意味のある形で活用するのは難しいと述べられています。2022年のレビューでも、免疫療法時代に入って理解は深まったものの、再現性の高い治療戦略としては確立していないことがうかがえます。アブスコパル効果は、がん治療における局所治療と全身治療の境界をなくす可能性がある現象です。今後、どの患者に、どのような照射条件と免疫療法の組み合わせが最適なのかが明らかになれば、免疫療法と放射線療法の併用治療がより現実的な治療選択肢へと近づいていくかもしれません。
参考URL
The abscopal effect of local radiotherapy: using immunotherapy to make a rare event clinically relevant
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0305737215000560?utm_source=chatgpt.com
A Review of the Abscopal Effect in the Era of Immunotherapy
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9604762/?utm_source=chatgpt.com