がん免疫療法コラム
診断テストにおける感度と特異度
前回、新しいがんの診断方法として「リキッドバイオプシー」をご紹介しました。その続きとしまして、マイクロRNAを使った「リキッドバイオプシー」の感度と特異度に関する結果が掲載されていましたので、この検査法がどの程度のパワーを持っているのかを見てみたいと思います。このような分野は素人なのであまり深入りはできませんが、感度と特異度の関係から見えてくるものがあると思いますので、少しお付き合い下さい。
◆感度と特異度
マイクロRNAを使った「リキッドバイオプシー」の感度と特異度に関する結果を表1にまとめました。感度は全てが96%以上ですが、特異度については、100%のものもあれば90%を下回るものもあり、感度に比べるとバラついている印象です。
表1 がんの種類とマイクロRNAを用いたリキッドバイオプシーの感度と特異度
これが何を意味しているのかを見る前に、まず、感度と特異度の意味についてご説明します。
感度とは「がんのある者を「陽性」と正しく判定する割合」のことです。例えば、表1の「大腸がん」の感度99%とは、がんと診断された100人のうち99人を「陽性」と正しく判定できたということです。
また、特異度とは「がんのない者を「陰性」と正しく判定する割合」のことです。特異度89%とは、がんにかかっていない100人のうち89人を「陰性」と正しく判断できたということです。
もちろん、目指すべきはどちらも「100%」です。しかし、なかなかそうは行きません。では、なぜ、うまくいかないのか、そこから始めましょう。
◆トレードオフ
よく感度と特異度はトレードオフ(二律背反)の関係と言われます。図1には、あるがん検査を行った場合を想定した際の分布を示しています。左の水色の山が「がんでない人」の検査値の分布を、右のオレンジの山には「がんと診断された人」の検査値の分布を示しています。
ここで、検査に陽性の人と陰性の人の線引きをするための値を決めるとします(緑色点線)。これをカットオフ値と呼びます。このカットオフ値を設定すると、両方の山が重なっている場合に、困ったことに偽陽性(がんでないのにがんと判定されてしまう)と偽陰性(がんなのにがんでないと判定されてしまう)が出てきてしまいます。偽陰性はオレンジ色の斜線部分が、偽陽性は水色の斜線部分が該当します。
そこでこのカットオフ値をずらすとどうなるかを見たのが、図1Bと図1Cです。図1Bに示しますように感度を高く(カットオフ値のラインを左に移動し、オレンジの山の面積を大きく)して偽陰性を減らそうとすると特異度が低くなり(水色の斜線部が大きくなる)、偽陽性が増えてしまいます。図1Cに示しますように、逆に特異度を高くしようとすると(カットオフ値をラインを右に移動し、水色の山の面積を大きく)、偽陽性は減りますが、感度が低くなり偽陰性が増えてしまいます。このような関係をトレードオフの関係と言い、感度と特異度がまさにその関係にあります。
◆トレードオフの関係を解消する
このトレードオフの関係は何とか解消できないのでしょうか?何か良い方法はないのでしょうか?実はこれには方法が3つあります。
1つは下の図2Aと図2Bに示すように、2つの山を離すように努めることです。例えばもっと良いマーカー(がん患者にのみ存在する物質など)を使用して、両者の平均値の差が大きくなるようにすれば、山どうしの重なり合う部分が減り、感度、特異度とも高く設定できます。
もう1つは図2Cに示すように検査結果のバラツキを無くし、精度を高めることです。結果として両者の山がスリムになります。そうすれば重なり合う部分が減ります。検査方法の技術的な向上などによって精度が上がれば、このようなことがあり得ます。この両方を合わせたのが図2Dです。
さて、次回は本題に入ります。「確定診断に用いる診断テストとはどういったものか」をテーマに、2回にわたって考えてみたいと思います。
参考文献
Care Net, 血液1滴で13がん種を同時診断、日本発miRNA測定技術, March 13, 2019 http://www.carenet.com/news/general/carenet/47640?utm_source=m37&utm_medium=email&utm_campaign=2019032101