がん免疫療法コラム
新しい免疫療法の組み合わせがもたらす「治療を受けない期間」の延長効果
「治療を受けない期間」という新しい指標
がん治療において、これまでの評価は「生存期間」や「腫瘍の縮小効果」が中心でした。しかし近年では、患者が治療を受けずに過ごせる期間「治療フリー生存期間(TFS: Treatment-Free Survival)」が注目されています。TFSは、患者の生活の質(QOL)に直結する新しい指標として、臨床試験でも取り入れられ始めています。
試験の背景と目的
今回ご紹介するのは、進行性黒色腫(悪性メラノーマ)の患者を対象とした第2/3相臨床試験「RELATIVITY-047試験」(ClinicalTrials.gov: NCT03470922)です。この試験では、従来から使われている免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ(nivolumab)」単剤と、新たに「リラトリマブ(relatlimab)」を併用した治療との効果が比較されています。この報告では、従来の生存率だけでなく「TFS」の観点から両者を比較し、患者にとってより負担の少ない治療選択肢を明らかにすることを主たる目的としています。
治療を受けない期間の比較結果
試験に参加したのは714名の患者で、追跡はランダム化から48か月間行われました。その結果、TFSはニボルマブ単剤に比べ、ニボルマブ+リラトリマブ併用群で平均2.9か月長いことが示されました(9.7か月 vs 6.8か月)。これは観察期間全体の20%を占め、単剤群の14%と比べて明らかに長い期間を治療から解放された状態で過ごせることを意味しています。
副作用を考慮した期間の延長
免疫療法では、重度(グレード3以上)の副作用が生活に大きく影響することがあります。そこで研究チームは「重度副作用のないTFS」も解析しています。その結果、ニボルマブ+リラトリマブ群では9.1か月、単剤群では6.5か月と、こちらも平均2.6か月の差が認められました。つまり、新しい併用療法は、副作用による苦痛を抱えずに過ごせる期間をより長く確保できることが示唆されました。
遺伝子変異やPD-L1発現による違い
さらに細かい解析では、腫瘍の遺伝子変異(BRAF変異の有無)や、がん細胞表面に発現するPD-L1の量も検討されています。どのサブグループにおいても、併用療法の方がTFSを延長させる傾向を示しており、特にPD-L1高発現群では12.3か月 vs 7.7か月と顕著な差が確認されました。これは個別化医療の観点からも重要な知見であり、患者ごとの特性に応じた治療戦略の最適化に役立つと考えられます。
今後の課題と展望
今回の解析は、ニボルマブ+リラトリマブの組み合わせが「治療を受けずに生活できる期間」を延長することを明確に示しています。しかし、すでに臨床現場で使用されている別の併用療法(ニボルマブ+イピリムマブ)との直接比較は行われておらず、TFSや従来の評価指標でどの治療が最も有益かを判断するにはさらなる研究が必要です。今後は、TFSという新しい指標が治療選択の重要な判断材料となり、患者の生活の質を重視したがん治療のあり方に大きな影響を与えることが期待されます。
参考文献
Meredith M Regan, et al. Analysis of treatment-free survival of patients with advanced melanoma receiving nivolumab as monotherapy or in combination with relatlimab in RELATIVITY-047. J Immunother Cancer. 2025 Sep 12;13(9):e012747.
