がん免疫療法コラム
アクラルメラノーマの免疫療法:スペイン全国データからの知見
稀少がん・末端黒色腫とは
黒色腫といえば日光に曝露された部位にできる皮膚がんが一般的ですが、手のひらや足の裏、爪の下などに発生する「末端黒色腫(Acral Melanoma: AM)」は、欧米では稀な病気となっています。AMはアジア人には比較的多いとされる一方で、アジア人以外における臨床データは乏しく、その治療効果や予後の実態はよく分かっていません。今回、スペインの研究チームが大規模データを用いて、AM患者に対する免疫療法の成績を明らかにしましたので、ご紹介します。
研究の目的と方法
本研究では、スペイン皮膚がん学会グループの大規模データを用いた解析が行われました。対象は末端黒色腫(AM)69例(ステージIIIが17例、ステージIVが52例)と、対照群として皮膚黒色腫(CM)724例(ステージIIIが190例、ステージIVが534例)です。なお、患者の大多数は非ヒスパニック系白人でした。本研究の目的は、両群の背景や治療反応、予後を比較することで、AMにおける免疫療法の位置づけを明らかにすることです。
AM患者の特徴 ― 高齢でBRAF変異が少ない
解析の結果、ステージIV患者を比較すると、AM患者は平均年齢が高く(中央値73.6歳 vs 66.6歳, p=0.001)、さらにBRAF遺伝子変異の有病率が著しく低いことが明らかとなりました(9.6% vs 60.7%, p=0.0001)。BRAF遺伝子変異が少ない、あるいは存在しないがんでは分子標的薬の効果が十分に得られない場合があり、治療選択肢にも大きな影響を及ぼします。すなわち、BRAF変異が少ないAMは、分子標的薬による治療が奏功しにくく、CMと比較して不利な立場にあることが分かりました。
免疫療法の成績 ― CMとの差は歴然
一次治療として免疫療法を受けた患者(AM 49例、CM 316例)において、奏効率はAMが15.0%にとどまり、CMの39.1%と比べて有意に低下していました(p=0.0033)。さらに、無増悪生存期間(PFS)はAMが5.5か月(95%CI: 3.97–8.23)、CMが15.3か月(95%CI: 8.97–26.3, p=0.001)。全生存期間(OS)においても、AMは17.3か月(95%CI: 13.32–39.97)に対し、CMは43.0か月(95%CI: 30.81–NR, p=0.007)と大きな差がみられました。
ステージIII患者と補助療法の結果
局所進行のステージIII症例においても、AMはCMに比べて腫瘍が深く浸潤している傾向が強く(T4bが52.9% vs 25.3%, p=0.02)、病理学的により進行度の高い病態を示しました。また、術後補助療法として抗PD-1抗体を受けた患者を比較すると、AM群では無再発生存期間(RFS)が中央値10.23か月(95%CI: 6.0–NR)、CM群では未到達(54.5–NR, p=0.017)。さらに5年生存率では、AM群36.1%に対してCM群75.8%と、ほぼ倍の差がついていました(p=0.034)。
今後の展望と課題
今回、スペインから報告されたデータは、AMがアジア人以外においても依然として極めて予後不良であることを示しています。特に免疫療法の効果が限定的である点は臨床的に深刻であり、CMと同じ治療戦略では十分ではないことを意味しています。今後は、BRAF変異の少なさや高齢発症といったAM特有の特徴を踏まえた新しい治療法の開発、そして国際的なデータ共有が急務といえるでしょう。
参考文献
Maria Gonzalez-Cao, et al. Poor efficacy of anti PD-1 antibody based immunotherapy in patients with acral melanoma: results from the Spanish Melanoma Group (GEM) registry. Clin Transl Oncol. 2025 Aug 21.
