がん免疫療法コラム
MDS/AMLにおける抗原特異的免疫療法の可能性:NY-ESO-1ワクチンとPD-1阻害の統合戦略
骨髄系悪性腫瘍における免疫療法の現状
骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)は、治療が難しい骨髄系悪性腫瘍として知られています。近年、DNA脱メチル化剤(アザシチジンやデシタビン)が抗腫瘍免疫を活性化する可能性が報告されており、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用療法の開発が進められています。しかし、早期臨床試験では臨床的効果や免疫応答の効果は限定的であり、その原因として抗原特異性の欠如が指摘されています。
抗原特異的戦略の必要性
既存の治療法では、MDS/AMLに対する免疫応答の評価が難しく、患者ごとの反応差も大きいことが課題です。そこで、今回ご紹介する研究では腫瘍特異的抗原であるNY-ESO-1を標的にしたワクチンを併用し、ニボルマブおよびデシタビンと組み合わせることで、抗原特異的な免疫応答の誘導と評価を試みています。
試験デザイン
この論文では、抗原特異的CD4+ T細胞応答の誘導および免疫関連遺伝子発現の変化を明らかにすることを目的として、移植適応外のMDS/低ブラストAML患者を対象にフェーズ1試験が実施されています。その中では、NY-ESO-1ワクチン、PD-1阻害剤、デシタビンを併用するプロトコールが検討されています。
CD4+ T細胞応答の誘導
フェーズ1試験の結果、全ての患者において、NY-ESO-1特異的CD4+ T細胞応答が誘導されることが判明しました。さらに、これらのT細胞においてPD-1阻害療法関連の遺伝子の発現が上昇し、治療が免疫系に影響を及ぼしていることが示唆されました。これは、抗原特異的アプローチが免疫活性化をもたらすことを示す重要な知見です。
樹状細胞(cDC1)の機能不全
一方で、患者群ではCD141高発現の通常型樹状細胞(cDC1)が減少していることが明らかになりました。この細胞群は免疫療法においてT細胞の活性化に不可欠なものです。今回、cDC1ではT細胞の活性化に必要な遺伝子の発現が低下しており、MDS患者の免疫環境の低下が確認されました。
免疫療法効果の変動要因
これらの結果から、免疫療法の効果は、骨髄系免疫環境の状態に大きく依存することが示唆されます。特にcDC1の数や機能が低下している患者においては、PD-1阻害剤や抗原特異的ワクチン療法の効果が限定的になる可能性があります。
将来的な治療戦略
cDC1の数や機能を増強するアプローチは、MDS患者における免疫療法の治療効果を高める鍵となります。これに対しては、樹状細胞誘導療法や遺伝子改変を用いた免疫調整療法が検討されており、さらに抗原特異的免疫療法と組み合わせることで治療効果の向上が大いに期待できます。
まとめ
今回ご紹介した研究では、NY-ESO-1ワクチンとPD-1阻害剤を組み合わせた抗原特異的免疫療法が、MDS/低ブラストAML患者においてCD4+ T細胞応答を誘導することが発見されました。同時に、cDC1の機能不全が治療効果に影響することも明らかとなり、将来的には、骨髄系免疫環境の改善と個別化免疫療法の開発が進むことで、より良好な臨床成果が得られることが強く期待されます。
試験登録番号:NCT03358719
参考文献
Elizabeth A Griffiths, et al. Checkpoint immunotherapy is associated with preferential activation of tumor antigen-specific CD4+ T cells in MDS. Blood Neoplasia. 2025 Apr 25;2(3):100106.