がん免疫療法コラム
点滴から皮下注へ進化する免疫チェックポイント阻害薬
点滴から皮下中への変化
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、これまで点滴での投与が一般的でした。点滴での投与は1時間近く時間が必要であり、患者の負担増大とともに医療スタッフやベッドの確保など医療現場の負担にもつながっていました。ICIの皮下注射製剤は、短時間で投与が完了し、患者さんの通院負担軽減と医療資源の効率化が期待できます。
以前から、利便性向上のためにニボルマブ皮下注製剤の開発が進められており、ニボルマブ皮下注の第III相試験では、点滴投与と比較して、薬の血中濃度推移や有効性・安全性が非劣性であることが示され、皮下注でも効き目は落ちないことが証明されました。
この結果を受け、米FDAは2024年12月、ニボルマブの点滴製剤を多数の固形がん適応で承認しました。
メリットと注意点
投与に要する時間が短縮され、点滴ルート確保も不要であるため、患者負担の軽減がメリットです。患者さんは「通院=長時間の点滴」というストレスから解放され、がん診療外来の混雑緩和や待ち時間の短縮にも直結します。
一方で、皮下注部位の痛みや発赤など局所反応、体格や皮下脂肪が少ない人には投与できない、そして併用療法の制限(例:特定領域ではイピリムマブとの併用不可)などの注意点もあります。
医療提供体制へのインパクト
ICIは長期にわたり定期投与されることが少なくありません。従来の点滴では、約1時間の投与が必要でしたが、皮下注射では数分の投与で終わります。投与時間の減少は、患者負担の軽減だけではなく、「医療の効率化」にもつながります。医療リソースが増えることで多くのがん患者さんに、質の高い医療を受けられる機会を増やすことも可能です。研究面でも、皮下注化は他のICIや抗体薬の投与設計の見直しを促し、治療全体の最適化を前進させると考えられます。
今後の展望
アメリカでICIの皮下注製剤が承認されたことによって、日本でもICIの皮下注製剤が承認される可能性があります。患者負担の軽減と医療資源の有効活用の面から皮下注製剤はメリットが多くありますが、投与部位の副反応や患者ごとに皮下注製剤が実際に使えるのかの判断基準を知っておくことが必要です。海外での臨床データも蓄積して安全性に関するエビデンスが蓄積することで、安心してICI皮下注製剤が使える日がくると考えられます。
将来的には、患者さん自身で注射するオートインジェクター製剤も開発されるかもしれません。オートインジェクター製剤は、糖尿病治療薬やリウマチ治療薬などで実用化されており、患者負担のさらなる軽減につながる可能性があります。
参考URL
Brief Report: Updated Data From IMscin001 Part 2, a Randomized Phase III Study of Subcutaneous Versus Intravenous Atezolizumab in Patients With Locally Advanced or Metastatic NSCLC
https://www.jto.org/article/S1556-0864%2824%2900210-7/fulltext?utm_source=chatgpt.com
アテゾリズマブの皮下注製剤が欧州で承,日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202401/582806.html