がん免疫療法コラム
高食物繊維食で広がる免疫チェックポイント阻害薬の可能性
「高繊維食」がメラノーマへの免疫療法反応を改善する可能性
アメリカ国立がん研究所(NCI)とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターが共同で行った研究では、食物繊維の豊富な食事が、免疫チェックポイント阻害薬によるメラノーマ(黒色腫:皮膚がんの一種)治療の効果を高める可能性を発表しました。この研究では、成人患者およびマウスを用いた実験によって消化管内の腸内細菌叢の多様性が、免疫機能に良い影響が起きたことが示唆されています。
免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けていた進行メラノーマ患者128名では、1日20g以上の食物繊維を摂取していたグループが非進行生存期間で最長を記録しました。さらに、5gの増加ごとに進行リスクが30%低下することも確認されています。
腸内細菌はがん治療の鍵になる
動物実験では、マウスを高繊維食または低繊維食に分け、抗PD‑1治療を施した結果、高繊維食を与えられたマウスでは腫瘍の増殖が抑制されました。一方、無菌マウス(腸内細菌を一切持たない)では繊維の違いによる効果が見られず、腸内細菌が免疫療法への反応改善に不可欠であることが示されました 。
さらに、高繊維食により短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸の増加や、腸内における特定の細菌種(免疫機能に良い影響を与える善玉菌)の増加が確認され、腸内環境の改善ががんに対する免疫反応の活性化につながっていると考えられています。
乳酸菌サプリは逆効果?
一方で、市販のプロバイオティクス(乳酸菌サプリなど善玉菌を使用したサプリメント)を使用したことで、がん免疫療法の効果が低下したことが報告されています。マウス実験では、プロバイオティクスを与えたマウスは腫瘍が大きくなり、抗PD‑L1治療への反応が悪化しました。免疫細胞の活性化が抑制される可能性が示唆されたとしています。
人間を対象とした調査でも、がん免疫療法の効果を低下させることが示唆されていますが、サンプルの少なさや使用製品の多様性から明確な結論には至っていません。しかし、プロバイオティクスを使用したグループよりも高繊維食のグループの方が無増悪期間が長かったことから、がん免疫療法中には乳酸菌サプリメントなどのプロバイオティクスは避けた方が良いでしょう。
腸内環境によってがん免疫療法が進化する可能性
食物繊維が豊富に含まれている食事によって腸内環境が改善されることで、がん免疫療法の治療効果を改善する可能性が示されました。しかし、手軽に摂取しやすいと思われるプロバイオティクスが必ずしも効果的ではなく、免疫応答を邪魔する可能性がある点は注意が必要です。今後のがん治療における栄養面からのアプローチにも影響することから、さらなる研究の進展が期待されます。
参考URL
A high-fiber diet may improve the response of melanoma patients to immunotherapy