がん免疫療法コラム

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免疫チェックポイント阻害剤+化学療法の効果を左右するバイオマーカー:MLR

進行胃がんにおける課題と新たな治療選択肢

近年、進行または転移性胃がんに対して、免疫チェックポイント阻害剤(ICIs)と化学療法の併用療法が新たな治療の選択肢として注目を集めています。ICIsはがん免疫療法の中核を担う薬剤であり、がん細胞による免疫回避を阻止することで、患者自身の免疫細胞によるがん細胞排除を促進します。

しかし、すべての患者がICIs+化学療法による恩恵を受けられるわけではなく、「化学療法単独」と「ICIs併用療法」のどちらを選択すべきか、依然として議論が続いています。その理由のひとつが、有効性を事前に予測する理想的なバイオマーカーが不足している点にあります。

この課題を解決するため、今回ご紹介する研究では「炎症マーカー」に着目し、ICIs+化学療法の効果を予測できる新たな指標を探ることが試みられました。

研究デザイン

この研究では、2020年7月から2023年6月の間に治療を受けた局所進行または転移性胃がん患者131人を対象としています。うち76人がICIs+化学療法を受け、55人が化学療法単独で治療されています。

解析では、各種炎症マーカーと治療効果(無増悪生存期間[PFS]および全生存期間[OS])との関連性が検討されています。さらに、治療前(ベースライン)と治療後(2コース終了時)のマーカー変動を組み合わせて、予測精度の向上にも取り組んでいます

新たなバイオマーカー:MLR

解析の結果、特に注目されたのが末梢血中の「単球対リンパ球比(MLR: monocyte-to-lymphocyte ratio)」でした。

ICIs+化学療法群において、ベースラインのMLR値が低い患者は、PFSおよびOSが有意に良好であり、OSに対する独立した予後因子であることが明らかになりました。さらに、治療開始後2サイクル時点でのMLRの変動を加味することで、予測精度はさらに向上しました。

具体的には、治療前・治療中ともにMLRが低い患者は、明らかに良好なOSを示し(P = 0.009)、ICIs+化学療法の恩恵を最大限に受けられる可能性が高いことが示唆されました。

化学療法単独との比較から見えた「MLRの意義」

さらに、MLRの予測力を裏付けるために、化学療法単独群との比較検討も行っています。その結果、ベースラインMLRが低い患者において、化学療法単独よりもICIs+化学療法の方が明らかに高い治療効果を得られる傾向が確認されました。

これは、単に「ICIsが効きやすい体質」というだけでなく、患者選択においてMLRを活用することで、無駄な副作用リスクを避けながら、より適切な治療方針を立てられる可能性を示しています。

今後への展望

今回ご紹介した研究は、MLRという単純かつコスト効率の高い血液検査指標が、進行胃がん治療における個別化医療の一翼を担う可能性を示した点で非常に興味深いものです。

今後は前向き臨床試験による検証が不可欠であり、また、MLRが示す生物学的背景、すなわち免疫環境や腫瘍微小環境との関連についても、より詳細に解明していくことが求められます。

最終的には、MLRを含めた多因子バイオマーカーパネルの開発が進むことで、進行胃がん患者に対する最適な治療選択が、より科学的かつ個別化された形で提供できる未来が期待されます。

6.     参考

Z Chenming, et al. Predictive role of inflammatory markers for the efficacy of first-line immunotherapy plus chemotherapy in advanced gastric cancer. Discov Oncol. 2025 Apr 26;16:618.

https://doi.org/10.1007/s12672-025-01857-0

 

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