がん免疫療法コラム

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フェロトーシスを介した脳腫瘍治療におけるNUAK2の役割

低悪性度神経膠腫(LGG)とは

低悪性度神経膠腫(LGG)は、主に若年から中年層に発生する原発性脳腫瘍の一つであり、緩やかな増殖を特徴とする一方で、細胞の不均一性が高く、再発率も高いことから、予後は依然として不良とされています。標準治療である手術、放射線治療、化学療法はいずれも一定の効果を示すものの、長期的な治癒には至らない例が多く、新たな治療標的の探索が急務となっています。

フェロトーシスとは

近年、鉄依存性細胞死(フェロトーシス)という新しい細胞死のメカニズムが、がん治療の標的として注目を集めています。フェロトーシスとは、細胞内の鉄イオンに依存し、脂質過酸化により誘導される非アポトーシス性の細胞死のことです。この経路の制御異常は、腫瘍の進行や治療抵抗性に関与している可能性があり、LGGにおいてもフェロトーシス関連遺伝子(FRGs)の役割解明が期待されています。

研究の概要

今回ご紹介する論文では、国際的な大規模ゲノムデータベースを解析し、LGGにおけるFRGsの発現と予後との関連が調べられています。さらに、単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)を用いて、FRGsの機能的役割が詳細に検討されています。最終的に細胞実験および動物実験を実施し、治療標的としての可能性が評価されています。

FRGsと免疫環境の関係

解析の結果、345個のFRGsがLGGの予後に関与していることが明らかになり、これらの遺伝子は、酸化ストレス応答、細胞増殖、免疫制御などに関連していることが判明しました。

高リスク群では、腫瘍微小環境において、免疫抑制的なM2型マクロファージや制御性T細胞(Treg細胞)が増加し、一方で腫瘍細胞を攻撃するCD8+T細胞の浸潤は減少していることも明らかになりました。このような微小環境は、腫瘍の免疫回避を促進し、治療抵抗性や再発を助長すると考えられます。

注目すべき遺伝子NUAK2の発見

今回の研究で特に注目されたのは、「NUAK2」という遺伝子であり、NUAK2は腫瘍の進行と免疫抑制の主要なドライバーであることが判明しました。

基礎実験においては、NUAK2を標的とすることで、腫瘍細胞の生存率が著しく低下し、腫瘍の増殖も抑制されることが確認され、NUAK2はLGG治療における有望なターゲットであることが強く示唆されています。

NUAK2の治療応用への展望

本研究は、FRGsがLGGの予後や腫瘍微小環境の形成に深く関与していることを包括的に示し、特にNUAK2に焦点を当てた点で重要な意義を持ちます。

今後の課題は、NUAK2の役割をさらに大規模に検証し、臨床応用に向けたバイオマーカーおよび治療標的としての可能性を追求することです。また、NUAK2を標的とする薬剤の開発や、既存の治療法との併用療法の効果検証も進められるべきであると考えられます。

まとめ

LGGの治療において、単に腫瘍細胞を取り除くだけではなく、鉄代謝や免疫環境の制御にまで踏み込む新たなアプローチが求められています。

今回ご紹介した研究は、フェロトーシス関連遺伝子と腫瘍免疫環境の密接な関係を明らかにし、NUAK2という新たな治療標的を提示しています。これにより、将来のLGG治療に新たな光が差し込むことが期待されます。

 

参考

Kan Wang, et al. Ferroptosis and low-grade Glioma: The breakthrough potential of NUAK2. Free Radic Biol Med. 2025 Jul:234:203-219.

https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2025.04.035

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