がん免疫療法コラム

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Long-COVID患者におけるCD8⁺T細胞の長期過剰活性化の実態

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Long-COVIDとは何か?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行から数年が経過した現在も、多くの患者が感染後3か月以上にわたり様々な症状に苦しむ「Long-COVID症候群」に悩まされています。倦怠感、呼吸困難、認知機能障害など多岐にわたる症状は、患者の日常生活を著しく制限しており、医療界にとっても大きな課題となっています。

今回ご紹介する研究では、Long-COVID患者の血液サンプルを解析し、感染後に後遺症を残さなかった人や、感染歴のない健常者と比較することで、Long-COVIDに特異的な免疫学的な異常を明らかにすることを目指しています。

CD8+T細胞の異常な活性化

解析の結果、Long-COVID患者では、特にCD8+T細胞において、明らかな過剰活性化の兆候が認められました。具体的には、T細胞の活性化マーカーであるCD25の発現量が、対照群と比較して約4倍も高くなっていることが判明しました。

さらに、免疫記憶に関わる「エフェクター・メモリーT細胞」の割合も2倍に増加しており、これはLong-COVID患者の免疫系が持続的な活性化状態にあることを示しています。

ポリクローナル刺激による反応も過剰化

さらに、T細胞を人工的に活性化させる刺激(ポリクローナル刺激)を加えた実験では、Long-COVID患者由来のT細胞が対照群に比べ、CD25の発現を2倍強く上昇させることが分かりました。

加えて、刺激後のサイトカイン産生に関しても、Long-COVID患者ではインターロイキン-3(IL-3)の放出が7倍にも増加していました。これは、通常の免疫応答では見られない、特異的な反応性の亢進を示しています。

IL-3産生CD8+T細胞の増加が顕著

細胞内染色による詳細な解析では、Long-COVID患者においてIL-3を産生するCD8+T細胞の数が、健常対照群と比べて5倍に増加していることが確認されました。

一方、通常の炎症性サイトカインであるGM-CSF、IFN-γ、IL-2といった分子の発現上昇は、Long-COVIDでは目立たず、IL-3特異的な免疫亢進が際立っています。つまり、Long-COVIDでは特異的な免疫活性が起きている可能性が示唆されます。

長期にわたる免疫異常と症状重症度との関連について

上述した免疫学的異常は、感染後18か月もの長期間にわたって持続しており、症状の重症度とも強く相関していました。

つまり、症状が重い患者ほど、CD8+T細胞の過剰活性化とIL-3産生の亢進が著しいことが示されています。このことは、Long-COVIDが単なる「ウイルスの後遺症」ではなく、「持続的な免疫系の異常」が深く関与していることを裏付けています。

免疫抑制療法への期待

これらの知見に基づき、著者らはLong-COVIDの治療において、CD8+T細胞の過剰な活性化を抑えるための「T細胞免疫抑制療法」の試験的導入を提案しています。

従来、Long-COVIDの治療は症状緩和を中心に行われてきましたが、免疫学的な異常に直接的に介入する新たなアプローチが、今後の治療戦略として重要性を増すかもしれません。

特に、IL-3経路やCD25発現を標的とした治療が、長期にわたる症状改善に寄与する可能性があり、今後の臨床研究が待たれます。

まとめ:Long-COVIDは「免疫の病」

今回の研究により、Long-COVIDは単に感染からの回復が遅れているのではなく、特定の免疫細胞、特にCD8+T細胞の持続的な過剰活性化によって特徴づけられる「免疫の病」であることが浮き彫りとなりました。

感染症後の慢性症候群という枠を超え、免疫制御異常としてLong-COVIDを再定義することが、今後の治療・予防戦略において極めて重要になります。持続する症状に苦しむ多くの患者にとって、本研究は新たな希望への一歩となるかもしれません。

参考文献

Renner K, et al. Hyper-reactivity of CD8+ T cells and high expression of IL-3 correlates with occurrence and severity of Long-COVID. Clin Immunol. 2025 Aug:277:110502. doi: 10.1016/j.clim.2025.110502.

 

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