がん免疫療法コラム
ミトコンドリアとがん免疫の関係
がん免疫療法が注目されている
がん免疫療法とは、私たちの体が本来持っているがんに対する免疫を強くする治療法です。最近では手術や抗がん剤、放射線による治療と並ぶ方法として注目されています。ですが、この治療が効かないがんの種類もあることがわかっています。なぜ効かないのか、原因はこれまでよくわかっていませんでした。
2025年1月、岡山大学を中心とする研究グループが、がん細胞が自分の持つ異常なミトコンドリアという部分を免疫の細胞に渡すことで、免疫の働きを弱めてしまうことを発見しました。この発見は、なぜ免疫療法が効かない場合があるのかを説明できる大事な手がかりとなりました。
ミトコンドリアの異常が治療を邪魔する
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを作る大事な部分です。このミトコンドリアは、他の細胞の部分とは違う独自のDNAを持っています。
今回の研究で、がん細胞のそばにいる免疫細胞(T細胞など)にも、がん細胞と同じ設計図の異常が見つかりました。これは、がん細胞が自分の異常なミトコンドリアを免疫細胞に渡している証拠と考えられます。
実験では、がん細胞のミトコンドリアを赤色、免疫細胞のミトコンドリアを緑色に光らせて観察しました。すると、がん細胞から免疫細胞にミトコンドリアが移動する様子が見えました。この移動によって、免疫細胞のエネルギーを作る力が弱まり、がん細胞を攻撃する力も落ちてしまうことがわかりました。
がん細胞の生き残りに使われるミトコンドリア
さらに研究グループは、ミトコンドリアの異常が治療にどれくらい影響するのかを調べました。
ネズミを使った実験では、免疫細胞のミトコンドリアに異常があると、免疫療法の薬が効きにくく、腫瘍が再び大きくなりやすいことがわかりました。
また、人間のがん患者のデータを調べたところ、腫瘍にミトコンドリアの異常がある人は、免疫療法の効果が続かず、生存率も低くなる傾向が見つかりました。
このことから、がん細胞が異常なミトコンドリアを免疫細胞に移すことで免疫の働きを弱め、治療の効果が下がってしまうことがわかったのです。
がん免疫療法の新しい可能性
今回の発見は、がん細胞が生き延びるための新たな手段を明らかにしたもので、今後のがん治療に役立つ大きなヒントです。
たとえば、ミトコンドリアの異常を標的にした新しい治療の開発や、免疫療法の効きやすさを予測する「指標(バイオマーカー)」としての利用が考えられます。
また、がん細胞から免疫細胞へのミトコンドリアの移動を止める薬や、免疫細胞のエネルギー作りを助ける薬も、これからの研究で注目されるでしょう。
このように、ミトコンドリアとがん免疫の関係をより深く理解することは、将来のがん治療をより効果的にするためのカギになると期待されています。
参考URL
がん細胞が自らの異常なミトコンドリアで免疫系を乗っ取り、生き残りをはかっている
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r6/press20250123-0.pdf