がん免疫療法コラム
がん免疫療法が老化を救う?―今後の展望
がん治療から生まれた“抗老化”の可能性
がん免疫療法の代表格である「免疫チェックポイント阻害剤」は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるブレーキ機構を解除し、T細胞による攻撃を促す治療法として世界中で使われています。
近年、この治療法ががんだけでなく、「老化細胞」の除去にも効果を持つ可能性があることが報告されました。老化細胞は加齢とともに体内に蓄積し、慢性炎症や生活習慣病、老年病の原因となることがわかっています。これらの細胞を効率よく除去する手段があれば、健康寿命の延伸にもつながると考えられています。
PD-L1を利用する老化細胞の発見
東京大学医科学研究所の研究チームは、老化細胞の一部がPD-L1という分子を発現していることを発見しました。PD-L1は本来、がん細胞がT細胞の攻撃を避けるために利用する分子であり、老化細胞が同様の仕組みで免疫からの攻撃を回避しているという新たな事実が明らかになりました。
研究チームは、高齢マウスおよび生活習慣病モデルマウスに対して、抗PD-1抗体を投与する実験を実施。その結果、老化細胞の除去に成功し、筋力低下や肝臓の脂肪蓄積といった加齢関連症状が改善されただけでなく、寿命が延びる傾向まで認められました。
しかも、使用された抗PD-1抗体はごく少量で、投与頻度も非常に低いものでした。これは、がん治療で課題となっている副作用の軽減にもつながる重要な成果といえます。
老化疾患への応用と課題
老化細胞は、糖尿病、動脈硬化、認知症など多くの加齢関連疾患の原因ともされています。免疫チェックポイント阻害剤が老化細胞に効果を示すことで、これらの病気を未然に防ぐ「原因療法」としての応用も期待されています。
ただし、今後の課題も少なくありません。老化細胞のPD-L1発現には個人差があること、免疫活性化による自己免疫リスク、副作用の長期的影響など、安全かつ効果的な運用にはさらなる研究が必要です。
健康寿命を延ばす新たな道筋へ
がん免疫療法が老化そのものを制御できる可能性は、医療だけでなく社会全体にとっても画期的な意義を持ちます。健康寿命が延びれば、医療費の削減や介護負担の軽減にもつながるため、少子高齢化が進む日本社会にとって重要な鍵となるでしょう。
今後は、ヒトでの臨床試験や個別化医療の開発を通じて、安全性と有効性の両立が求められます。がん免疫療法が切り開く“抗老化免疫治療”の未来に、大きな期待が寄せられています。
参考URL
抗PD1抗体は老化細胞の免疫監視を強化し、老年病・生活習慣病を改善する
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00200.html