がん免疫療法コラム
がん細胞の免疫回避メカニズムに迫る:FABP7の新たな役割
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背景
がん細胞は自身の生存のために免疫システムを巧妙に欺き、免疫抑制環境を作り出して腫瘍の成長や治療抵抗性を助長します。しかし、免疫システムも黙ってはいません。CD8+ T細胞はフェロトーシス(鉄依存性細胞死)を誘導し、がん細胞を攻撃します。このフェロトーシスは脂質過酸化によって引き起こされ、Lpcat3という酵素が関与することで、がん細胞をフェロトーシスに対して脆弱にします。
これまで、がん細胞がどのように免疫療法によるフェロトーシスを回避するのか、そのメカニズムは十分に解明されていませんでした。今回ご紹介する研究では、がん細胞が脂肪酸結合タンパク質7(FABP7)を利用して、フェロトーシスおよび免疫攻撃から逃れるメカニズムが明らかにされています。
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研究方法
この研究では、がん細胞のフェロトーシス抵抗性を解明するために多様な細胞株と動物モデルが用いられています。具体的には、PD-1感受性およびPD-1耐性の細胞株、B16F10メラノーマ細胞、およびQPP7グリオブラストーマ細胞が使用されています。また、同系マウスモデルやCD8+ T細胞特異的にRora遺伝子を欠損させたノックアウトマウスも活用されています。
技術面では、質量分析ベースのリピドミクス、シーホース解析による細胞代謝評価、定量PCR、免疫組織化学、PPARγ転写因子アッセイなど、多岐にわたる解析手法を駆使しており、さらにChIP-seqやATAC-seq、RNA-seq、イメージング質量サイトメトリーも使用し、がん細胞と免疫細胞間の相互作用を詳細に解析しています。
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結果
研究の結果、PD-1耐性腫瘍はFABP7の発現を増加させることで、フェロトーシスおよび抗腫瘍免疫から逃れることが明らかになりました。
まず、FABP7はLpcat3の転写を抑制し、逆にBmal1の転写を促進します。これはがん細胞の生存能力を高めます。さらに、リピドミクス解析ではFABP7がトリグリセリドと一価不飽和脂肪酸(MUFA)のレベルを上昇させ、脂質過酸化と活性酸素種(ROS)の生成を抑制することが確認されました。
また、FABP7の発現増加によりミトコンドリア機能が向上し、脂肪酸酸化(FAO)が促進されることで、がん細胞の代謝的防御がさらに強化されていることが明らかになりました。
さらに興味深いのは、がん細胞がCD8+ T細胞内でもFABP7の発現を増加させることです。これにより、サーカディアンリズム遺伝子の発現が乱され、p53の安定化を通じてT細胞のアポトーシスが誘発されることが示されました。
臨床試験データの解析では、FABP7の高発現が免疫療法を受けた患者の全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の低下と強く相関していることが判明しました。
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結論
今回の研究では、FABP7ががん細胞のフェロトーシス抵抗性と免疫療法耐性において重要な役割を果たしていることが世界で初めて示されました。FABP7の発現を標的とすることで、がん治療の新たなアプローチが開発される可能性があります。
特に、免疫療法との併用治療としてFABP7阻害剤の開発が進めば、治療効果の向上が期待されます。また、FABP7の発現レベルをバイオマーカーとして利用することで、免疫療法の効果予測や個別化医療の発展に寄与することも期待されています。
がん治療の未来に向けた新たな一歩として、FABP7の役割は今後さらに注目を集めることとなりそうです。
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参考文献
Maria Angelica Freitas-Cortez, et al. Cancer cells avoid ferroptosis induced by immune cells via fatty acid binding proteins. Mol Cancer. 2025 Feb 3; 24:40.