がん免疫療法コラム
対象でなかった人にもがん免疫療法が使える?
がん免疫療法の課題と新たな可能性
がん免疫療法は、近年急速に発展しているがん治療の一つであり、特に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は大きな注目を集めています。しかし、すべての患者に有効とは限らず、一部のがん患者ではICIが十分な効果を発揮しないことが課題となっています。この「治療抵抗性」の問題を克服するため、新たな治療戦略の研究が進められています。
近年の研究では、自然免疫応答を活性化する薬剤であるOK-432が、がん免疫療法の効果を高める可能性があることが示唆されています。
OK-432と治療抵抗性の仕組み
OK-432は、溶連菌由来の薬剤であり、もともとがん治療や免疫療法の補助として使用されてきました。自然免疫を活性化し、がん細胞への免疫攻撃を促進する作用が期待されています。
しかし、担がんモデルマウスを用いた研究では、OK-432を投与すると「多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)」ががん組織に集積し、結果的に免疫応答を抑制することが判明しました。PMN-MDSCは、がん細胞の免疫逃避を助ける働きを持ち、がん免疫療法の効果を低下させる要因の一つとされています。
この発見により、OK-432の単独使用では治療効果が限定的である可能性が示されました。一方で、PMN-MDSCを除去する薬剤と組み合わせることで、がん免疫療法の効果を向上させる新たな治療戦略が見えてきました。
炎症性がん・非炎症性がんと治療抵抗性の関係
がんの種類によって免疫応答の特性が異なります。特に、がんは大きく「炎症性がん」と「非炎症性がん」に分類され、それぞれの特性によって治療の効果が異なることが知られています。
多種類のマウスモデルを用いて、OK-432によるPMN-MDSCの集積がどのタイプのがんで発生するのかを検討した研究では、特定のがんタイプではPMN-MDSCが顕著に増加し、免疫チェックポイント阻害薬の効果が低下することが確認されました。
これらの研究からOK-432を含む自然免疫活性化薬の有効性を、事前に予測するためのバイオマーカーを特定できる可能性があります。どの患者にこの治療法が適しているのかを見極めることが可能になり、より効果的ながん免疫療法の実現が期待されています。
がん免疫療法の新たな戦略
OK-432のような自然免疫応答を活性化する薬剤を使用する際には、PMN-MDSCを同時に除去する薬剤を併用することで、より高い治療効果が期待できることが示されました。
今後は、OK-432を含む免疫活性化薬の最適な使用法を確立し、より多くのがん患者に効果的な治療を提供することが可能になるかもしれません。また、バイオマーカーを用いた患者選別が進むことで、個別化医療の精度が向上し、より適切ながん免疫療法の提供が可能になると考えられます。
参考URL
免疫チェックポイント阻害薬と自然免疫応答を活性化する薬剤との併用におけるがん免疫治療の抵抗性機序を解明,国立研究開発法人国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2025/0214/index.html