がん免疫療法コラム
自己免疫疾患のカギを握る“新型加齢T細胞”
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はじめに
自己免疫疾患は、免疫系が誤って身体の組織を攻撃する病気であり、その発症には遺伝的要因や環境的要因が関係しています。特に加齢が自己免疫疾患の発症リスクに関与していることが知られており、加齢に伴う免疫系を理解することは、疾患の予防や治療法開発にとって非常に重要なことです。今回、加齢に関連した新たなT細胞集団「ThA(Age-associated helper T)細胞」が発見され、その役割に注目が集まっています。
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ThA細胞の特徴
ThA細胞は、免疫系の中でも特に加齢に関連して増加するT細胞群です。従来、抗体産生と細胞傷害という2つの免疫機能は、別々の細胞によって担われていると考えられていましたが、ThA細胞はこれらの両方の機能を持つことが世界で初めて明らかになりました。ThA細胞集団は加齢とともに増加し、特筆すべきことに、若年層の自己免疫疾患患者においてもThA細胞の増加が見られることが確認されました。この知見は、加齢に伴う免疫系の変化が自己免疫疾患に与える影響を示唆しています。
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ThA細胞と自己免疫疾患
ThA細胞は、難病指定されている全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患において、B細胞の抗体産生を強く促進することが明らかになりました。これにより、自己免疫疾患が悪化するメカニズムが明らかとなり、ThA細胞が疾患の進行に重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。ThA細胞は、他のT細胞とは異なる遺伝子発現パターンを持ち、細胞傷害に関与する分子を高く発現することが確認されています。この特徴が、自己免疫疾患における臓器障害を引き起こす原因となると考えられています。
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ThA細胞の制御因子「ZEB2」の発見
ThA細胞の機能は「ZEB2」という遺伝子によって制御されていることが明らかになりました。ZEB2は、ThA細胞の特定の機能を引き起こす遺伝子であり、ZEB2の制御メカニズムを理解することで、ThA細胞による自己免疫疾患の進行を抑制する新たな治療法が開発される可能性があります。
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今後の研究と展望
ThA細胞は、加齢に伴う免疫系の変化の一環として、自己免疫疾患の発症や進行に深く関与している可能性があります。今後は、ThA細胞が健康長寿や加齢に関連する疾患にもどのように関与するのかを明らかにするためのさらなる研究が必要です。特に、高齢者における感染症防御などの健康的な役割と、自己免疫疾患での臓器障害とのバランスを解明することが重要となります。
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結論
今回の研究成果は、加齢に伴う免疫系の変化が自己免疫疾患に与える影響を新たな視点から明らかにしたものです。ThA細胞の発見は、自己免疫疾患の理解を深め、将来の新たな治療法開発に向けた重要な第一歩となります。今後、ThA細胞をターゲットにした治療法が、加齢に伴う疾患や自己免疫疾患の治療に大きな進歩をもたらすことが期待されます。
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参考
- 東京大学プレスリリース 2024年02月09日
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/__icsFiles/afieldfile/2024/02/09/release_20240209.pdf - Goto M, et al. Age-associated CD4+ T cells with B cell-promoting functions are regulated by ZEB2 in autoimmunity. Sci Immunol. 2024 Mar 29;9(93):eadk1643.