がん免疫療法コラム

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NR4A欠損型CAR-T細胞による固形がんに対する新たな免疫療法

1. CAR-T細胞療法の現状と課題

CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞を遺伝子改変して、がん細胞を攻撃する新しい免疫療法です。特に、B細胞性の血液がんに対しては高い治療効果を示していますが、固形がんに対する効果は限定的とされています。その原因の一つとして、腫瘍内でT細胞が疲弊する現象が挙げられます。固形がんでは、がん細胞との戦いによってT細胞が消耗し、抗腫瘍活性を失う「疲弊化」が問題となっています。この「疲弊化」を克服することが、固形がんに対するCAR-T細胞療法の進展に向けた鍵となります。

2. T細胞の疲弊メカニズムとその克服方法

T細胞が疲弊化するプロセスには、いくつかの段階があります。まず、疲弊化前駆細胞(TPEX)はがん細胞に対して強い抗腫瘍効果を発揮しますが、やがて疲弊化して「終末疲弊T細胞(TEX)」となり、抗腫瘍能力が低下します。免疫チェックポイント阻害薬がTPEXに作用して抗腫瘍効果を改善する一方で、TEXに対しては効果が少ないため、TEXの数を減らしTPEXを増加させることが固形がんへの治療効果向上のために重要です。このようなメカニズムを理解し、疲弊化を防ぐ方法が求められています。

3. NR4A遺伝子とT細胞疲弊の関係

NR4A遺伝子群(NR4A1、NR4A2、NR4A3)は、T細胞の疲弊化を引き起こす重要な因子であることが以前の研究で示されています。NR4A遺伝子の発現が抑制されると、T細胞は疲弊化を回避し、より強力な抗腫瘍効果を示します。特に、NR4A1、NR4A2、NR4A3のいずれかを欠損させることで、T細胞は固形がんに対してより長期間にわたり高い抗腫瘍能を維持することが可能になるため、NR4Aの抑制はCAR-T細胞療法の改善に繋がると考えられています。

4. NR4A遺伝子の欠損によるCAR-T細胞の効果向上

研究グループは、健常者の血液から得たT細胞にNR4A遺伝子を欠損させ、CAR-T細胞として遺伝子改変を行いました。この結果、NR4A1、NR4A2、NR4A3の全てを欠損させたCAR-T細胞は、がん細胞との培養実験において、通常のCAR-T細胞が2週間以内に疲弊化して抗腫瘍効果を失うのに対し、疲弊を免れて優れた抗腫瘍効果を維持しました。さらに、65歳以上の高齢者由来のT細胞でも、この方法は有効であり、疲弊化を防ぎ、より高い抗腫瘍効果を示すことが確認されました。

5. NR4A欠損CAR-T細胞の臨床応用に向けた展望

NR4A遺伝子を欠損したCAR-T細胞は、代謝活性が向上し、抗腫瘍効果が持続することが明らかになりました。この特性により、固形がんに対する免疫療法の効果を大幅に向上させる可能性があります。さらに、この技術は年齢に関係なく有効であり、特に高齢患者においても治療効果を期待できることが示唆されています。今後は、これらの成果を基に、NR4A欠損型CAR-T細胞を用いた治療法の臨床試験が進められることが期待され、がん免疫療法の新しい治療戦略となることが予想されます。

6. 参考

  • K Nakagawara,et al. NR4A ablation improves mitochondrial fitness for long persistence in human CAR-T cells against solid tumors. J Immunother Cancer. 2024 Aug 16;12(8):e008665. doi: 10.1136/jitc-2023-008665.

 

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