がん免疫療法コラム

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非ウイルス性素材で進化するがん免疫療法:新たな核酸デリバリーの挑戦

1.がん免疫療法の現在

日本では死因の第一位であるがん。その治療法の中で、「がん免疫療法」は次世代の治療法として注目を集めています。このアプローチでは、患者自身の免疫細胞を教育し、活性化させてがんを攻撃する仕組みを利用します。その中でも、T細胞に特定のがん抗原を認識する受容体「CAR(キメラ抗原受容体)」を発現させることで、がん細胞を直接攻撃できるCAR-T細胞療法が革新的な手法として期待されています。

 

2.CAR-T細胞療法の課題

しかし、CAR-T細胞療法には課題があります。T細胞にCAR遺伝子を導入する際に用いられる無毒化ウイルスの使用は、依然として安全性に懸念が残っています。このため、ウイルスを使わず、効率的かつ安全に核酸をT細胞に届ける技術の開発が急務となっています。

 

3.革新的なデリバリー技術の開発

今回の報告では、非ウイルス性のアプローチとして「デンドリマーナノ粒子」が注目されました。この粒子は、T細胞内部に物質を送り込む技術として開発され、特に疎水性アミノ酸であるフェニルアラニンと負電荷をもつカルボキシ基が末端に導入された構造が特徴です。この設計により、リンパ節内のT細胞内部へのデリバリーが可能になりました。

今回ご紹介する研究では、DNAのデリバリーに向けて、このデンドリマーナノ粒子が活用されています。DNAはサイズが大きいため、粒子内部への搭載は困難です。そのため、正電荷をもつ市販の遺伝子導入試薬「リポフェクタミン」と、負電荷をもつフェニルアラニン修飾デンドリマーを混合し、「三元複合体」を作製しました。これをモデルT細胞であるJurkat細胞に添加したところ、従来の方法と比較して遺伝子導入効率が向上する結果が得られました。さらに、フェニルアラニンをもたないデンドリマーを使用した場合は効果が低下したことから、この修飾がDNAデリバリーの成功に重要であることが示されました。

 

4.将来の展望

フェニルアラニン修飾デンドリマーは、非ウイルス性で安全性が高い核酸デリバリー技術として、がん免疫療法をさらに進化させる可能性を秘めています。今後は、このナノ粒子の構造をさらに改良し、ウイルスに匹敵する遺伝子導入効率を実現することが目指されています。この技術が成熟すれば、CAR-T細胞療法の適用範囲が広がり、多くの患者に希望を届けることが期待されています。

 

参考

  • Chie Kojima, Mei Sawada, Ikuhiko Nakase, Akikazu Matsumoto. Gene Delivery into T-Cells Using Ternary Complexes of DNA, Lipofectamine, and Carboxy-Terminal Phenylalanine-Modified Dendrimers. Macromol Biosci. 2023 Nov;23(11):e2300139.

 

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