がん免疫療法コラム

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がん免疫療法の新展開:制御性T細胞とCCR4標的治療の可能性

1.背景

私たちの体は、免疫システムを駆使してがん細胞を「異物」として認識し、排除する力を持っています。その中でも、CD8陽性T細胞は、がん抗原を認識して攻撃する主要な役割を担っています。しかし、がん組織内では免疫抑制環境が形成され、CD8陽性T細胞が「疲弊」と呼ばれる機能低下状態に陥るため、十分にその力を発揮できません。この問題に対処するため、近年では免疫チェックポイント阻害薬が開発され、多くの進展が見られています。

しかし、免疫抑制においてもう一つ重要な役割を果たしているのが、制御性T細胞(Treg)です。この細胞はCD8陽性T細胞の働きを妨害し、がんの進行や治療抵抗性を手助けする要因となっています。Tregを標的とした治療は、がん免疫療法の次なるフロンティアとされていますが、免疫系全体の恒常性を保つ役割もあるため、その選択的な制御が課題でした。
 

2.CCR4受容体を鍵とした制御性T細胞の標的治療

研究チームは、1細胞レベルでの解析手法を開発し、がん組織内に存在するTregがCCR4受容体を高発現していることを発見しました。この受容体に注目し、血液がん治療薬として使用されている抗CCR4抗体(モガムリズマブ)を活用することで、Tregを選択的に除去する可能性を示しました。

初期の臨床試験では、モガムリズマブがTregの除去に成功しましたが、治療効果は限定的でした。その後の解析により、抗腫瘍免疫に重要なセントラルメモリーCD8陽性T細胞もCCR4を低レベルで発現しており、通常の投与量ではこれらの細胞も同時に除去されることがわかりました。結果として、モガムリズマブの投与量を減らすことでTregを選択的に除去しつつ、CD8陽性T細胞を温存する新たな治療アプローチが提案されました。
 

3.制御性T細胞の活性化メカニズムの解明

さらに研究を進める中で、がん組織内のTregが独自の遺伝子発現制御機構と特徴的なクロマチン構造を持つことが判明しました。特に、転写因子BATFがTregの活性化プログラムの中核を担い、その抑制がTregを標的としたがん免疫療法に繋がる可能性を示しました。この発見は、免疫学の新時代を切り開く重要な一歩といえます。

4.今後の展望

今回の研究は、免疫療法の「最適量」という概念を導入する画期的な成果です。単に投与量を増やすのではなく、慎重に調整することで、従来のアプローチとは異なる治療効果を引き出せる可能性を示しました。今後は、BATFやCCR4を標的とした治療法の開発を通じ、がん免疫療法の更なる進化が期待されています。

がん治療における新たな扉を開くこの研究は、免疫学全般に対する理解を深めるとともに、患者にとって希望となる未来を示しています。

参考
OUR RESEARCH FOCUS, 国立がん研究センターhttps://www.ncc.go.jp/jp/ri/about/our_research_focus/h_nishikawa/index.html

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