がん免疫療法コラム

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免疫効果を増強!免疫原性ネオ抗原の機能性促進

1.     理化学研究所(理研)による薬剤耐性がんへの革新的アプローチ

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターの研究チームが、難治性がんに対する新たな治療法の可能性を提示しました。研究チームは、マウスモデルを使用して、抗がん剤耐性を持つがん細胞における特異な変異が、免疫系によってより認識されやすい「免疫原性の高いネオ抗原」を生じることを発見しました。ネオ抗原とは、がん細胞特有の抗原であり、免疫系に認識されやすい性質を持っています。このような抗原は、免疫原性が高く、免疫チェックポイント阻害剤(ICB)の効果を引き出す可能性があるとされています。

研究チームが発見したネオ抗原は、従来のがん細胞に見られるものとは異なり、免疫応答を引き起こしやすく、特に抗がん剤耐性腫瘍への有効なターゲットとして注目されています。この研究結果により、これらのネオ抗原を提示させた樹状細胞(DC)療法とICBを併用することで、薬剤耐性がんへの新しい治療アプローチが見込まれています。

 

2.     背景と薬剤耐性メカニズム

がんの発生には、遺伝的変異が深く関わっており、例えば細胞分裂を調節するタンパク質リン酸化酵素であるBRAFの遺伝子の特定変異は、悪性黒色腫や大腸がんの一因とされています。特にBRAFV600E変異は、細胞の増殖、細胞周期、発生などのさまざまなシグナル伝達系で働く、タンパク質リン酸化酵素であるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のシグナルの異常活性化を通じて腫瘍形成を引き起こします。

この変異に対する特異的な阻害剤であるベムラフェニブは、悪性黒色腫の治療において有効とされ、実際に生存率向上にも寄与しています。しかし、長期的な使用によって薬剤耐性が出現し、がんの再発リスクが高まることが課題です。

こうした中、腫瘍抑制遺伝子ARID1Aの欠損は腫瘍のさらなる増殖を促進し、結果としてICB治療に対する反応が増大する可能性があるとされています。

 

3.     薬剤耐性ARID1A欠損腫瘍に対する免疫療法の可能性

研究チームは、ARID1Aが欠損した腫瘍細胞に焦点を当て、悪性黒色腫の治療に使用される分子標的薬の一つであるベムラフェニブに耐性を持ったARID1A欠損腫瘍に対して、ICBを用いた免疫療法の可能性を検証しました。検証の結果、薬剤耐性を持っているにもかかわらず、ARID1A欠損腫瘍において高い免疫応答が確認され、特に免疫反応を誘導しやすいネオ抗原の発現が増加する傾向が見られました。

この免疫原性の高いネオ抗原を提示する樹状細胞とICBを併用することで、腫瘍に対する免疫系の攻撃がさらに強化される可能性が示されました。

 

4.     耐性がん細胞の新たな治療アプローチとしてのネオ抗原

さらに、ベムラフェニブに耐性をもつARID1A欠損株メラノーマ細胞をマウスに移植し、抗PD-1抗体による効果が評価されました。その結果、薬剤耐性ARID1A欠損株では、より強力な抗腫瘍効果が認められ、腫瘍内のCD8陽性T細胞の増加が確認され、抗腫瘍免疫反応の促進が示されました。

次に、がん細胞に発現するネオ抗原の免疫原性を評価した結果、薬剤耐性ARID1A欠損株のネオ抗原は他のがん細胞よりも高い免疫反応を引き起こすことが示されました。

また、薬剤耐性ARID1A欠損腫瘍に対する治療効果を確認するために、薬剤耐性特異的ネオ抗原ワクチンを投与する実験も行われました。併用療法を受けたマウスでは腫瘍の成長が抑制され、抗PD-1抗体との併用によりさらに高い抗腫瘍効果が確認されました。

これらのことは、薬剤耐性がんの治療において、免疫系の働きを最大限に引き出す可能性を示唆しています。

 

5.     実用化に向けた期待と展望

得られた研究結果から、薬剤耐性ARID1A欠損腫瘍における新たなネオ抗原が、免疫系の強力なターゲットとして機能する可能性が明らかとなりました。つまり、薬剤耐性がん細胞で新たに出現するネオ抗原を活用した治療法が、難治性がんに対する新しい免疫療法として有望であることを示しています。今後、薬剤耐性を有する難治性がん患者において、ICBと新たなネオ抗原を活用した免疫療法が、より効果的な治療オプションとしての役割を果たすことが期待されます。

薬剤耐性がんにおけるネオ抗原の利用は、がん治療分野における革新的な進展をもたらす可能性があり、抗がん剤耐性に対する免疫療法がさらに発展することで、これまで治療が困難であった患者にも新たな治療選択肢が提供されることが期待されます。

 

参考

Masahiro Okada, Satoru Yamasaki, Hiroshi Nakazato, Yuhya Hirahara, Takuya Ishibashi, Masami Kawamura, Kanako Shimizu, and Shin-ichiro Fujii, “ARID1A-Deficient Tumors Acquire Immunogenic Neoantigens During the Development of Resistance to Targeted Therapy”, Cancer Research, 10.1158/0008-5472.CAN-23-2846

理化学研究所
https://www.riken.jp/press/2024/20240906_2/index.html

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