がん免疫療法コラム
腸内細菌嚢を移植することで免疫療法の効果も増大する?
腸内細菌は人の免疫機能に影響する
人の腸管には約1000種類、100兆個以上の腸内細菌が存在し、多種多様な腸内細菌の集団は、見た目が花畑のようにも見えることから腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ばれることもあります。
人間に対する役割から腸内細菌は、善玉菌や悪玉菌、日和見菌と分類されています。善玉菌は、人間の健康に良い影響を与える菌であり、腸内で善玉菌を増やすことで免疫機能が向上することが報告されています。食生活の乱れやストレス、便秘などによって人間の健康に悪影響を及ぼす悪玉菌が増えるので免疫機能を維持するためにも生活習慣には注意が必要です。
腸内細菌叢移植を応用した治療
腸内細菌叢移植は、健康な人の便から腸内細菌叢を抽出して、内視鏡によって患者さんの腸内に注入する治療法です。腸内細菌のバランスを健康な人の状態に戻すことで病気の治療ができると考えられているため、腸内細菌叢移植は注目されています。
世界では、腸内細菌叢に着目した治療法の開発が進んでおり、アメリカやオーストラリアでは、難治性クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療薬として腸内細菌叢移植を応用した医薬品が承認されています。
また、日本でも、潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植法」が一定の効果が確認されており、先進医療Bとして厚生労働省によって承認されています。
がん免疫療法と腸内細菌嚢移植
がん免疫療法においても腸内細菌叢移植によって、治療効果が上昇することが考えられてきました。免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が得られない悪性黒色腫の患者さんに対して、腸内細菌叢移植をしたことでがんに対する免疫機能が改善され、治療効果が上昇したと報告されています。
順天堂大学で行われた切除不能進行・再発食道がんおよび胃がん患者さんを対象に「免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌嚢移植併用療法」を実施した研究が行われており、がん免疫療法の新しい治療選択肢となるか検討されています。
がん免疫療法の併用療法としての新しい選択肢
免疫チェックポイント阻害薬の開発によって、従来の抗がん剤では治療効果がなかった患者さんにも治療選択肢が出てきました。しかし、全ての患者さんに免疫チェックポイント阻害薬の効果があるわけではありません。腸内細菌叢移植は、患者さんの免疫機能を強化することでがん免疫療法の効果を増強することが可能です。近年では、腸内細菌の健康に対する役割が注目されており、がん免疫療法における腸内細菌の応用研究も進むことが予想されています。
参考URL
食道がん・胃がん患者さんを対象とした「腸内細菌叢移植」の臨床試験を開始
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/0809/index.html