がん免疫療法コラム

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iPS-NKT細胞による頭頸部がん治療の新展開

1.はじめに

主に鼻、口腔、咽頭、喉頭、唾液腺などに発生する頭頸部がんの治療には、手術、放射線、抗がん剤が用いられます。通常はこれらを組み合わせて治療を行いますが、手術による食事や発声への影響、または抗がん剤や放射線による副作用など、患者への負担は依然として大きなものとなっています。それにもかかわらず、進行した頭頸部がんの治療成績は依然として不良なままです。

 

2.iPS-NKT細胞とは

ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)は千葉大学の研究者によって発見されました。NKT細胞は人体には少数(リンパ球の0.1%以下)しか存在しませんが、強い抗がん作用を有しており、直接がん細胞を殺すだけでなく、他のリンパ球の作用を高めて間接的にも抗がん作用を発揮することができます。これを治療に応用するために、NKT細胞を体内で増やす、あるいは体外で増やしてがんに投与する方法が研究されていますが、NKT細胞は人の血液中には0.01%程度しか存在せず、かつ個人差も大きいため、実用化へのハードルは依然として高いままです。

この問題を解決するために、iPS細胞からNKT細胞を分化・作製する「iPS-NKT細胞」技術が開発されました。この開発によって、iPS-NKT細胞は高機能を備えたまま増殖可能となり、頭頸部がんに直接投与することで高い治療効果と実用性が期待される次世代の高機能細胞と考えられています。

 

3.iPS-NKT細胞動注療法の臨床試験

千葉大学病院と理化学研究所が共同して、iPS-NKT細胞をヒトに投与する世界初の試みが第Ⅰ相医師主導治験として実施されました。この治験の目的は、iPS-NKT細胞のヒトに対する忍容性(副作用などの発現状況)、安全性、および有効性を評価することです。対象疾患は標準治療後または標準治療の適応とならない再発・進行頭頸部がんで、対象被験者数は10名となっています。

この治験は2023年8月31日に最終症例への投与が終了し、同年11月1日に外部委員会によってiPS-NKT細胞の安全性が確認されました。

 

4.今後の展望

現在は治療効果をさらに高めるために、iPS-NKT細胞と樹状細胞をあわせて投与する臨床試験が計画されています。樹状細胞はNKT細胞を活性化し、抗がん作用の相乗効果が期待できるものです。また、iPS細胞を使用することで、より抗がん作用の強い遺伝子を導入することも可能となり、将来的には頭頸部がん以外にも、肺がんなどの患者数が多いがんに対する応用が期待されています。

この新しい治療法が普及すれば、がん治療の未来が大きく変わる可能性があります。患者さんの負担を減らし、治療成績を向上させるために、iPS-NKT細胞を用いた治療法の実用化に向けた研究がさらに進むことが期待されます。

 

5.参考

千葉大学
https://www.cn.chiba-u.jp/story_240422/

千葉大学ニュースリリース
https://www.ho.chiba-u.ac.jp/hosp/item/newsrelease_20240705.pdf

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