がん免疫療法コラム
がん免疫療法の発展に欠かせないモデルマウス
がん免疫療法の有効性と問題点
がん免疫療法の歴史は古く、1890年代のニューヨークの外科医ウィリアムによって開発されたのが始まりですが、100年以上の長い間不遇の扱いを受けてきました。
がん免疫療法が再び評価されるようになった転機として、切除不能又は転移性悪性黒色腫に対する治療薬「イピリムマブ」がFDA(米国食品医薬品局)に承認されたことがあげられます。現在では、イピリムマブよりも臨床的に有効性を示した「ニボルマブ」や「ペムブロリズマブ」などが開発され、がん免疫療法は目覚ましい進化を遂げています。
がん免疫療法は、化学療法では治療が難しかった患者に対しても生存率の上昇が報告されており、新しいがんの治療法としても注目されています。
しかし、化学療法ではみられなかった、自己免疫反応などの副作用がみられるという問題点もあり、治療効果の高い、副作用の少ないがん免疫療法治療薬のさらなる開発が望まれています。
従来のモデルマウスはがん免疫療法の評価に適さない
化学療法に使われる抗がん剤開発に用いられた「モデルマウス」は、遺伝子組み換えによって免疫不全にしたマウスにヒトのがん細胞を移植するものでした。
抗がん剤モデルマウスは、抗がん剤のヒトがん細胞への効果を評価するのに適していますが、免疫機能が破壊されているため免疫細胞に働きかけるがん免疫療法の評価には向いていません。
そのため、がん免疫療法を適切に評価するためには、免疫の働きを完全に保持しているモデルマウスが必要とされました。
新しい治療薬の開発には適切に評価できるモデルマウス
マウスの免疫系を保ったままがんを発症させるために、さまざまなことが行われました。
シンジェニックモデルは、マウス由来のがん細胞を同型のマウスに移植し、がんを発症させます。比較的簡単な手法で作成ができ、短期間でがんを発症させることがメリットですが、マウス由来であるためヒトがん細胞に対する正確な評価が難しいデメリットがあります。
化学物質を用いてがんを発症させる「化学発がんモデル」やヒト病態に近づけるために、遺伝子異常を導入したGEMM(Genetically Engineered Mouse Model)、免疫チェックポイント阻害薬の評価に使われる「免疫系ヒト化マウス」などは、免疫系を保ったモデルマウスです。
免疫系ヒト化マウスは、マウスに対して「ヒト造血幹細胞」や「末梢血単核球」を移植することでヒトの免疫系を再構築したモデルマウスです。ヒトの免疫系と同様の動きをするため、がん免疫療法を適切に評価できる特徴があります。
モデルマウスの開発によって治療薬の開発が進む
がん免疫療法を評価するために、さまざまなモデルマウスが作成されています。モデルマウスには、ヒトとマウスという種族の違い、移植する部位の違い、動物愛護など課題も多くありますが、モデルマウスの開発によってがん免疫療法の発展に貢献することが期待されています。
参考URL
がん免疫療法の評価動物モデルの現状と課題,日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)148,144~148(2016)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/148/3/148_144/_pdf