がん免疫療法コラム
指定難病である神経線維腫症2型(NF2)に対する免疫療法の展望
1.はじめに
神経線維腫症2型(NF2)は両側性前庭神経鞘腫を主とする、10~20 歳代での発症が多い遺伝性疾患です。比較的速く進行していき、難聴・めまい・ふらつき・耳鳴りなどで、その他、痙攣・半身麻痺などの重篤な症状を伴うこともある希少性難治性疾患として、国の指定難病に登録されています。若年より聴力が障害され、10年生存率は67%と報告されています。
従来の治療法に関してですが、NF2は手術では神経損傷の可能性が高いため、多発している腫瘍に対して積極的に手術を行うことはできません。一方、放射線治療は一定の成績を示していますが、大きなサイズの腫瘍には適応されません。
近年、研究によりNF2の神経鞘腫は血管新生因子である血管内皮増殖因子(VEGF)-Aを高発現していることが発見され、その分子標的薬であるベバシズマブの有効性が示されつつあり、患者にとっては明るい話題となっています。
2.VEGFR1/2ペプチドワクチンとは
VEGFR1/2ペプチドワクチンは腫瘍や腫瘍血管に発現する抗原ペプチド(HLA 結合性)をワクチン化したものであり、投与後は細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化し、抗腫瘍効果を発揮するワクチンです。
VEGFR1/2ペプチドワクチンによって誘導されたCTLは、VEGFRを発現している標的細胞を攻撃し、かつ体内でCTLが持続するため、長期的な効果が期待されています。
3.VEGFR1/2ペプチドワクチンを用いた臨床試験
探索的臨床試験「進行性神経鞘腫を有するNF2に対するVEGFR1/2ペプチドワクチンの第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験」が実施され、VEGFR1/2ペプチドワクチン投与が終了した16例において、評価可能な聴力を持つ13名の患者のうち、6か月で5名、12か月で2名の単語認識スコアが改善しています。また、本ワクチンに関連する重篤な合併症は発生しておらず、VEGFR特異的なCTLが良好に誘導され、多くの患者で腫瘍増大の制御が確認されています。
この臨床研究の結果は、VEGFR1/2ペプチドワクチンを接種した後に誘導された記憶性CTLが、腫瘍の進行を持続的に抑制する可能性を示唆しています。
4.今後の展望
VEGFR1/2ペプチドワクチンは、特定のヒト白血球抗原(HLA)の型に対して効力を発揮しますので、今後はHLA-A*2402型の患者に対して、プラセボ群を対照とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験が行われる予定です。
5.まとめ
NF2は希少疾患であり、治療薬開発に焦点が当てられる機会は多くありません。難治性腫瘍に対するVEGFR1/2ペプチドワクチンの有効性を示すことができれば、難治性NF2の患者さんにとっては素晴らしい朗報となることは間違いありません。
6.参考
1.慶応大学プレスリリース
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2024/6/12/240612-1.pdf
2.Tamura R. et al. Phase I/II Study of a Vascular Endothelial Growth Factor Receptor Vaccine in Patients With NF2-Related Schwannomatosis. J Clin Oncol. 2024 May 22:JCO2302376.doi: 10.1200/JCO.23.02376.