がん免疫療法コラム
小児神経芽腫に対する”GD2免疫療法”の臨床試験
1.はじめに
近年、小児癌の治療にも免疫療法が導入されました。神経芽腫に対する抗GD2抗体ジヌツキシマブが昨年承認され、予後の改善が期待されています。さらに、国内外でワクチン療法、二重特異性抗体、CAR-T細胞療法の開発が進んでおり、免疫療法は小児癌治療における大きなブレークスルーになると期待されています。
2.抗GD2抗体免疫療法
神経芽腫は小児癌の中で白血病、脳腫瘍に次いで多く発生します。GD2(ジシアロガングリオシド)は神経芽腫細胞表面に多く存在し、化学療法の影響を受けずに発現が持続するため、最も有効なターゲットとされています。GD2は他の癌種(胎児性癌、神経膠腫、骨肉腫、メラノーマ、小細胞肺癌、トリプルネガティブ乳癌)でも発現し、未熟で悪性度の高い癌細胞表面に多く存在します。
神経芽腫ではGD2が細胞間接着や浸潤、免疫エフェクター細胞の抑制機能を持ちます。乳児の神経芽腫では自然退縮が見られますが、多くはMHCクラスI分子の発現が低く、免疫担当細胞の浸潤がほとんどない“Cold tumor”です。神経芽腫細胞はsoluble GD2やTGF-βなどの免疫抑制因子を分泌し、末梢では間葉系幹細胞(MSC)や骨髄由来抑制細胞(MDSC)も多く存在します。
抗GD2抗体が神経芽腫細胞のGD2に結合すると、NK細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞が抗体依存性細胞傷害(ADCC)や補体依存性細胞傷害(CDC)を引き起こします。また、抗GD2抗体は“Eat me signal”と呼ばれるcalreticulin(カルレティキュリン)を誘導し、マクロファージの貪食作用を促進します。さらに、抗GD2抗体はsoluble GD2の中和や細胞外マトリックスからの細胞剥離による細胞死も引き起こします。
抗GD2抗体の効果は、GD2の発現量や免疫エフェクター細胞の機能に依存します。また、神経芽腫細胞上にはPD-L1が発現することや、腫瘍が“Don’t eat me signal”といわれるCD47を発現してマクロファージの貪食作用を抑制することが知られていますが、マウスモデルでは抗GD2抗体と抗CD47抗体の併用により、相乗的な抗腫瘍効果が確認されています。
3.抗GD2抗体を用いた臨床試験
抗GD2抗体ジヌツキシマブの開発は1980年代に始まりましたが、効果が限定的であったため、IL-2やGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)との併用が検討されました。IL-2はNK細胞を、GM-CSFは好中球とマクロファージを活性化します。第3相ANBL0032試験では、イソトレチノインにIL-2、GM-CSF、ジヌツキシマブを併用した治療の有効性が示され、2015年に米国と欧州で承認されました。
ANBL0032試験では、標準治療のイソトレチノイン単独と、IL-2、GM-CSF、ジヌツキシマブ併用療法を比較し、無イベント生存期間(EFS)と全生存期間(OS)の有意な延長が確認されました。5年EFS率は併用群で56.6%、標準治療群で46.1%、5年OS率はそれぞれ73.2%と56.6%でした。試験終了後も併用療法が続けられ、1183人の患者で5年EFS率61.1%、5年OS率71.9%が示されました。
日本ではGM-CSF、IL-2、イソトレチノインが使用できないため、代わりにG-CSFやM-CSF、テセロイキンを用いた第1/2a相試験(GD2-PI)が実施されました。G-CSFとM-CSFの併用で差がないことが確認され、その後の試験ではG-CSFが使用されました。第2b相試験(GD2-PII)では、米国レジメンと日本のレジメンの非劣性が証明され、2021年6月にジヌツキシマブはテセロイキン(IL-2)とフィルグラスチム(G-CSF)の併用療法で「大量化学療法後の神経芽腫」に対して薬事承認されました。
4.今後の展望
抗GD2抗体の今後の開発として、化学療法との併用や二重特異性抗体、CAR-T細胞療法、GD2/GD3ワクチンの併用が検討されています。また、ボリノスタットとMIBG(メタヨードベンジルグアニジン)、オルニチン脱炭酸酵素阻害薬(difluoromethylornithine)、NK細胞の投与も検討されています。さらに、神経芽腫だけでなく、グリオーマ、メラノーマ、ユーイング肉腫、骨肉腫、トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌でも開発が進んでいます。
5.まとめ
神経芽腫は小児がんの中で白血病、脳腫瘍に次いで多く発生し、主に副腎に発生しますが、診断時に約60%の患者で骨や肝臓、皮膚、骨髄などに遠隔転移が見られます。予後が悪く、再発せずに5年間生存できるのは約40%です。2010年、米国小児がんグループは抗GD2抗体を用いたがん免疫療法により無イベント生存率が約20%向上することを発表しました(ANBL0032試験)。これを受けて、北米や欧州ではこの治療法が神経芽腫の標準治療として用いられています。
6.参考
- 日経メディカル(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/report/202211/577463.html)
- Theruvath J. et al. Anti-GD2 synergizes with CD47 blockade to mediate tumor eradication. Nat Med. (2022) 28(2):333-344.
- Wienke J. et al. The immune landscape of neuroblastoma: Challenges and opportunities for novel therapeutic strategies in pediatric oncology. Eur J Cancer. (2021) 144:123-150.
- Temel JS. Et al. Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. (2010) 363:733-742
- Ferrarotto R. et al. Pilot Phase II Trial of Neoadjuvant Immunotherapy in Locoregionally Advanced, Resectable Cutaneous Squamous Cell Carcinoma of the Head and Neck. Clin Cancer Res. (2021) 15;27(16):4557-4565.
- Solomon BJ. Et al. Post Hoc Analysis of Lorlatinib Intracranial Efficacy and Safety in Patients With ALK-Positive Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer From the Phase III CROWN Study. J Clin Oncol. (2022) 1;40(31):3593-3602.