がん免疫療法コラム
Crispr/Cas9システムとがん免疫療法の可能性
がんの増殖と転移には糖鎖が深く関係している
がん細胞が増力、転移するためには、「がん微小環境」と呼ばれるがん細胞と正常細胞の相互関係が必要です。がん細胞は、切除して培養してもほとんど増殖せず、正常細胞を利用しないと増えることもできません。がん細胞は、正常細胞を利用して免疫細胞や抗がん剤から身を守っており、がん細胞の増殖をサポートさせてがん微小環境を構築します。
がんの増殖において「糖鎖」の役割が注目されており、免疫細胞の活性や抗がん剤の効果に大きな影響が知られています。細胞ががん化すると細胞表面に存在する糖鎖構造にも変化が生じ、がん微小環境における糖鎖の役割を解明することで、がん治療にも活用できると考えられています。
Crispr/Cas9システムでゲノム編集ができる
Crispr/Cas9は、ゲノム(遺伝情報の集合体)の標的遺伝子を任意に切断でき、遺伝子を改変するために重要なツールです。Crispr/Cas9システムを利用することで、ゲノムを切断して目的の遺伝子を挿入する「ゲノム編集」が可能となりました。
従来の遺伝子改変は、放射線や紫外線、化学物質などを利用してゲノム上のDNAに損傷を起こして、特定遺伝子を挿入していました。しかし、標的とする遺伝子を改変するためには、時間がかかることが問題点でした。
Crispr/Cas9システムは、標的遺伝子に対して短時間かつ高効率で改変できるため、従来の方法では年単位でかかっていた遺伝子改変が1ヶ月程度でできるようになってきています。
特定の遺伝子を編集することでがんの増殖を抑制できる
がんの発生と転移に関係している糖鎖を特定するために、Crispr/Cas9システムを利用して糖鎖を合成する酵素を欠損させたマウスを作製して、研究が行われました。その中でも、遺伝子改変によって「B4GALT3」という酵素を欠損させたマウスでは、免疫に反応する腫瘍細胞の増殖が抑制され、がん組織の中にCD8+T細胞の浸潤してがん細胞を攻撃していることが確認されています。
このことから、「B4GALT3」という酵素によって細胞表面に付加された糖鎖ががんに対する免疫反応に影響することが考えられます。
ゲノム編集技術の発展によってがん免疫療法が飛躍することも
Crispr/Cas9システムなどのゲノム編集技術の進展によって、がんの発生メカニズムの解明が進んでいます。がんに対する免疫反応の解明も進むことで、がん免疫療法の技術も進み、今まで治療が難しかったがん種に対しても希望の光になることが考えられます。
参考URL
糖鎖の変化がもたらす免疫機能の調節 ―糖鎖の欠損が示すがん免疫療法の新しい道https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2023-10/2310-Naruse_Frontiers%20in%20Immunology_relj2-69e90f4173c8e1c110045ac617ce230c.pdf
CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集,東邦大学
https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/0811.html