がん免疫療法コラム
がん治療で起こる口内炎を軽減する半夏瀉心湯
抗がん剤や放射線によって口内炎が起きる
抗がん剤を使用した化学療法や放射線治療では、口内炎が起きることがあります。
抗がん剤は、がん細胞以外にも正常な細胞に影響することがあり、口腔内粘膜の細胞にダメージが蓄積することで口内炎を発症します。
同じように放射線治療でも、がん細胞周辺の正常組織も照射領域に入ることで口内炎が起きることもあるので、口腔ケアなどの対策が必要です。
進行がん患者669例を対象とした調査では、22.3%の患者に口内炎が認められており、別の調査では口腔内乾燥については77%の患者に認められたと報告されています。
そのため、がん治療において口内炎などの口の中のトラブルは、多くの患者のQOLを低下させる要因となっています。
半夏瀉心湯によって口内炎が軽減する
半夏瀉心湯は、半夏や乾姜、黄芩など7種類の生薬で構成されている漢方薬です。
胃腸の働きを良くして食欲不振や胃もたれ、吐き気、下痢などの症状を改善しますが、がん治療における口内炎にも効果があるとされています。
がん治療における口内炎の原因として、口腔粘膜の細胞が攻撃されたことで産生されるプロスタグランジンがあります。
プロスタグランジンは、痛みや炎症を引き起こす体内物質であり、口内炎などを改善するためにはプロスタグランジンの働きを抑えることが重要です。
半夏瀉心湯に配合されている乾姜や黄芩には、プロスタグランジンの産生を抑制する働きがあるされています。また、口腔内細菌の増殖も抑制することから、お口のトラブルを予防する効果が期待できます。
放射線治療による口内炎を発症した患者5例を対象とした調査では、半夏瀉心湯の投与によって3例が改善したと報告されています。
がん免疫療法による口腔トラブルを予防する可能性がある
がん免疫療法は、体に備わっている免疫力を活性化させることでがん細胞を死滅させる治療法です。
そのため、がん細胞を直接攻撃する化学療法に比べると副作用が少ないとされていますが、免疫力が過剰になることで副作用が起きることもあります。
過剰になった免疫ががん細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃することで大腸炎や皮膚障害などが見られ、口内炎についても1〜5%ほどの頻度で発現することが報告されています。
炎症を抑える働きがある半夏瀉心湯は、がん免疫療法で起きた口内炎を改善するかもしれません。
半夏瀉心湯による口内炎の改善については、化学療法では有効性が報告されていますが、がん免疫療法による口内炎では研究の進展が望まれます。
漢方薬でがん治療のつらい副作用を軽減できるかもしれない
半夏瀉心湯は、がん治療による口内炎以外にも下痢に対しても効果が報告されています。
がん治療には副作用のリスクが必ずありますが、漢方薬と併用することで症状を軽減する可能性があります。
今後も漢方薬による副作用軽減効果の研究が進むことで、がん治療で低下するQOLを改善することも可能です。
参考URL
放射線治療に伴う腸炎・口内炎に対する半夏瀉心湯有効例とその検討,日東医誌vol.65 No.2 108-114,2014
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/65/2/65_108/_pdf
終末期がん患者の口腔内不快事象に対する蜂蜜併用半夏瀉心湯の含嗽による有効性の検討,Palliat Care Res 2019; 14(3): 159–67
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/14/3/14_159/_pdf/-char/ja
抗がん剤治療による口内炎に対する半夏瀉心湯の効果〜明日の口内炎患者のために〜,日薬理誌 ,146,76~80(2015)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/146/2/146_76/_pdf
P107-7.Nivolumabによる口唇炎・口内炎に対する多職種チーム医療の1例,日本肺癌学会
https://www.haigan.gr.jp/journal/am/2018a/18a_gpl107P107-7.html