がん免疫療法コラム

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最新研究から紐解く:禁煙は肺がん患者の生存期間を延ばすか?

肺がんは、日本で最も多いがんの死因です。その中でも非小細胞肺がん(NSCLC)は、日本においても最も一般的な肺がんタイプで、全肺がんの約80-90%を占めます。今回紹介する研究はNSCLC患者の生存期間に与える禁煙の影響を調査した大規模研究であり、2023年にJAMA Network Openへ掲載されました。

本研究から、禁煙の新たなメリットが明らかになりました。実は、前々から禁煙することが肺がんと診断された予後にも重要な役割を果たすと示唆されたのです。本研究では肺がんになる前に禁煙していた人は、肺がんが見つかった時に喫煙していた人よりも、発がん後の死亡リスクが有意に低いことを示すデータが報告されました。このデータは肺がん患者や一般的ながん予防に役立つ知見として参考となる結果といえるでしょう。

 

禁煙と肺がん

肺がんと喫煙の関連性

肺がんは世界的に最も多いがんです。中でも85%を占めるのが非小細胞肺がんです(1)。日本においても一般的な肺がんの一種です。肺がんにおける発症リスクとして、喫煙者の肺がんリスクが有意に高いことはこれまでの研究から広く知られています。

禁煙は肺がんと密接な関係が認められてきた

喫煙は肺がん発症の大きな原因ですが、禁煙を始めれば徐々にその悪影響は和らぎます。禁煙は肺がんのリスク低減に重要な意味を持つのは確かです。

 

禁煙の肺がん予後への影響はあるのか?

研究の背景とその目的

喫煙と肺がん発症リスクの関連はこれまでの研究から広く知られていました。しかし、肺がん発症後の生存期間に対する禁煙の影響は、これまであまり詳しく検討されておらず、予後への影響はよくわかっていませんでした。

そこで今回、診断前の禁煙期間が長いほど、肺がん発症後の生存期間も長くなるのではないかと考え、禁煙の新たなメリットを調べる大規模な研究が行われました。この研究はDavid Christiani氏が率いるハーバード大学の研究チームと、米国立がん研究所の研究資金提供によって実施されました。

 

研究方法

対象患者と調査方法について

1992年から2022年までの30年間に、マサチューセッツ総合病院で非小細胞肺がんと診断された5,594人の患者を対象に行われました。そのうち14.2%が非喫煙群、59.1%が以前は喫煙者だったが診断前に禁煙していた(元喫煙群)。そして、26.7%が診断時も喫煙習慣があった人々です(喫煙群)。

患者の喫煙歴や臨床的特徴は質問票で前向きに収集され、診断後の生存状況は12~18カ月ごとに定期的な追跡調査が実施されました。

 

早期に禁煙していた人は肺がんになっても死亡リスクが低い

禁煙群と喫煙群の生存期間の比較

まず、全生存期間は非喫煙群が中央値58.9カ月、元喫煙群が51.2カ月、現喫煙群が34.0カ月という結果でした。

そこから患者を年齢、性別、がん悪性度、病期などを調整して結果がまとめられました。結果として、禁煙者の死亡リスクは非喫煙者に比べて26%も高く、現喫煙者は68%高いことが判明しました。

 

肺がん発症前に禁煙することが生存率を上げる

さらに重要な点として、肺がん診断までの禁煙期間が長いほど、診断後の死亡リスクが有意に低下することが新たに認められました。具体的には肺がん診断までの禁煙期間が2倍長いごとに、死亡リスクは4%ずつ低下することが示されています。

 

喫煙・禁煙の肺がん病期別の違いはどうか? 

また、肺がん診断時の病期別に層別化して解析したところ、ステージごとに以下のことがわかりました。

 

早期肺がん

喫煙者と禁煙者の間で、早期肺がん(ステージI-III)の生存率に顕著な差が見られた。喫煙者は禁煙者に比べて生存率が低くなる傾向が確認されました。

 

進行肺がん

進行肺がん(ステージIIIB-IV)の患者においても、喫煙者は禁煙者に比べて生存率が低いですが、早期肺がんの場合ほどの差はありませんでした。

特に早期肺がん患者において、禁煙の好ましい効果があると示唆されました。

 

今回の大規模研究が示す、肺がんに対する姿勢

本研究結果から、肺がん患者において、禁煙が予後改善につながる可能性が強く示唆されました。一方で、現在喫煙者の予後は最も悪い結果が確認されました。できるだけ早期に禁煙を行うことが予後改善に重要だと言える研究結果です。

 

禁煙の重要性  

著者らは本研究の限界として、肺がんに対してどのような治療歴かや、生活習慣関連因子が強く考慮されていないことを挙げています。元喫煙者は禁煙をするタイミングで、喫煙以外の生活習慣も改善する傾向がある。そのため、そのことが死亡リスクに対して保護的に働いた可能性も指摘しています。ただ、これまでの数多くの研究が喫煙の肺機能低下を証明している点からも、禁煙のメリットは確かなものと支持しています。

禁煙は一朝一夕でメリットが現れません。ただし、長期的に見れば着実に健康リスクを下げる効果が期待できる研究結果といえます。

 

参考文献

Duma N, Santana-Davila R, Molina JR. Non-small cell lung cancer: epidemiology, screening, diagnosis, and treatment.
Mayo Clin Proc. 2019;94(8):1623-1640.
doi:10.1016/j.mayocp.2019.01.013
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(19)30070-9/fulltext

Xinan Wang, et al. Prediagnosis Smoking Cessation and Overall Survival Among Patients with Non–Small Cell Lung Cancer
JAMA Netw Open. 2023;(5) 6
doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.11966
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2804556

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