がん免疫療法コラム

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肺がんの新たな敵、肺胞マクロファージの正体とは?―大阪大学の研究者らが衝撃の事実とその機構を紐解く

肺がんは、日本で最も多いがんの死因です。肺がん治療には、手術や放射線、抗がん剤などがありますが、早期発見が重要です。しかし、肺がんは自覚症状が少なく、気づいたときには進行していることが多いのも事実です。そのため、早期発見に向けて肺がんの発生や進行に関わる細胞分子を探る研究が近年も盛んに行われています。数ある研究の中から大阪大学の石井教授ら研究グループがNatture Commun.誌に発表した研究を今回はご紹介します。本研究は、これから肺がんの早期発見と治療に貢献が期待される結果と肺胞マクロファージの興味深い事実が明らかにされました。

 

肺がんの新たな敵、肺胞マクロファージとは?

肺がんの環境には、がん細胞だけでなく、さまざまな免疫細胞が存在しています。免疫細胞は、本来は体を守るために病原体や異物を排除する役割を担っていますが、がん細胞に対しても攻撃したり、抑制したりすることがあります。しかし、中にはがん細胞の増殖や浸潤を助けてしまう免疫細胞もいるのです。

その一つが、肺胞マクロファージという細胞です。肺胞マクロファージは、肺の一番奥にある肺胞という小さな空気の袋に多く存在する免疫細胞です。肺胞マクロファージは、正常な肺では、肺胞の構造を維持したり、呼吸によって入ってくるほこりや細菌を食べたりする重要な役割を担っています。しかし、肺がんの環境では、その働きが変化してしまうことが本研究で明らかにされました。

 

肺がん環境で変化する肺胞マクロファージの働き

大阪大学の石井教授らの研究グループは、マウスを使って肺がん環境を作り、肺胞マクロファージの働きを調査しました。その結果、肺胞マクロファージは、肺がん環境におかれると、アクチビンAというタンパク質を多く産生することが確認されました。アクチビンAは、正常な細胞では、細胞分裂や分化を調節する役割を持っていますが、がん細胞では、増殖や浸潤を促進することが知られています。つまり、肺胞マクロファージは、アクチビンAを介して、肺がんの悪化を助けてしまうのです。

研究グループは、さらに、肺胞マクロファージをマウスから取り除くと、肺がんの増殖が抑えられることも本研究で見出しました。また、アクチビンAの作用を阻害する薬を投与した場合、同様に肺がんの増殖が抑えられることが観察されました。これらの結果から、肺胞マクロファージとアクチビンAが、肺がんの増殖を促進する悪循環を形成していることが強く示唆されました。

 

肺胞マクロファージの産生するアクチビン A を阻害することで肺がんの治療に期待

この研究成果は、肺胞マクロファージの産生するアクチビンAを阻害することが、肺がんの治療に有効である可能性を示しています。アクチビンAの阻害薬は、すでに臨床試験の段階にあるものもあります。肺がんの患者さんに対して、アクチビンAの阻害薬を投与することで、がんの増殖を抑えることができれば、生存期間の延長や生活の質向上につながると期待できる研究結果と言えます。

 

肺胞マクロファージとアクチビン A に着目した肺がんの早期診断と手術治療の可能性

この研究の意義は、治療法の開発だけでなく、肺がんの早期診断や手術治療にも貢献できると石井教授は述べています。研究グループは、ヒトの肺がん組織でも、肺胞マクロファージとアクチビン A 発現を調査しており、特に早期がんの場合において、肺胞マクロファージがアクチビン A を産生していることを明らかにしました。マウスモデルだけでなくヒトでも同様のメカニズムが作用していることを示すデータといえます。今後、肺胞マクロファージやアクチビン A の発現量を測定することで、肺がんの早期発見や薬物治療、そして手術による根治の可能性を高めることができるかもしれません。

 

参考文献
S. Taniguchi et al. In vivo induction of activin A-producing alveolar macrophages supports the progression of lung cell carcinoma. Nat. Commun.14,143 (2023)
https://www.nature.com/articles/s41467-022-35701-8

IFReC 大阪大学免疫学フロンティア研究センター News & Topics
https://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/20230119-0900.htm

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