がん免疫療法コラム
大腸がんの転移に骨髄が関係している
大腸がんによる死亡数が多い
大腸がんは、結腸や直腸、肛門などの大腸に発生するがんです。
特に、大腸の中でもS状結腸や直腸など、便が留まりやすい部位にがんが発生しやすいと言われています。
大腸がんは、男性では2位、女性では1位とがんによる死亡数では上位を占めており、死亡数の多いがん種の一つです。
2021年では大腸がんによって男性は28000人以上、女性は24000人以上の方が亡くなっており、新しい治療法の開発が求められています。
大腸がんの治療を難しくしている要因
大腸がんの死亡率が高い理由として、大腸がんの約20%を占める「高悪性度大腸がん」があげられます。
高悪性度大腸がんは、大腸以外の臓器や組織へ転移しやすく、通常の抗がん剤などの治療薬が効きにくい性質を持っています。
がんが他の臓器や組織に転移すると手術による治療が根治が難しくなり、化学療法による全身への治療が必要です。
全身へ抗がん剤を作用させることから、副作用など身体への負担も重くする要因となります。
高悪性度大腸がんが他の臓器に転移するメカニズムについては、完全に解明されていませんでした。
大腸がんの転移に骨髄が関係している
ヒトの大腸がんの組織を調べると、トロンボスポンジン1(THBS1)というタンパク質が特異的に発現していることがわかっています。
THBS1の存在は、血小板にて初めて確認されましたが、さまざまな研究によって細胞外マトリックス(細胞と細胞を繋ぎ合わたり、細胞が増殖したりするのに必要な成分)で機能を発現し、血小板凝集や細胞接着などに役割を果たしています。
しかし、近年の研究によって、THBS1はがんの転移に関係していることがわかっています。
THBS1欠損マウスに大腸がんを発症させると、がんの転移が抑制され、がん組織内には活性化した免疫細胞が増えていることが確認されました。
また、通常の大腸がん組織内に存在するTHBS1を遺伝子解析すると骨髄由来のものが多く、大腸がんの転移には骨髄が重要な役割を果たしていることが判明しました。
転移を抑制することで新しい治療が開発できる
がんが転移することで、がん治療の難易度が格段に上昇します。
がんが転移することで、手術による治療が難しくなり、化学療法による治療が中心となりますが、転移を予防できれば治療の選択肢が増えます。
大腸がんの転移に骨髄から作られるTHBS1が重要な役割を果たしていることが判明し、新しい治療法の可能性も出てきました。
また、THBS1が免疫力を抑制することから、がんの転移を抑制するためにがん免疫療法との併用も有効であると考えられます。
参考URL
大腸がん:骨髄が転移を促進?―新しい治療法への展望― ,京都大学
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2023-10/2309_Nakanishi_NatComm_relj2-d1947ad9ce521e640a48ac432946b782.pdf
大腸がんとは,日本医師会
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/largeintestine/what/
トロンボスポンジン-1および-2の欠損マウス,血栓止血誌10(4):320~324,1990
https://www.jsth.org/publications/pdf/jstage/10_4.320.1999.pdf