がん免疫療法コラム
免疫チェックポイント阻害薬の新たな可能性:抗PD-1抗体「キイトルーダ」による臓器横断的治療
がん種を特定しない保険承認
現在、免疫チェックポイント阻害剤の中でも代表的となっている抗PD-1抗体。その中の1つである「キイトルーダ」(MSD株式会社)が、2018年12月に日本で初めてがん種を特定しない保険承認を得ました。
(正確には「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」)
これまでの保険承認では、ゲフェチニブ-非小細胞性肺がんのような、特定のがん腫に限定されたものが一般的でした。
そのため、「キイトルーダ」は長年スタンダードであったがん種別化学治療の転換期であり、遺伝子変異別化学療法=臓器横断的治療という考え方の大きな一歩でした。
MSI-high / 抗PD-1抗体「キイトルーダ」が臓器横断的に効果を発揮する理由
2018年に承認対象となったのは「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌」です。言い換えると、MSI-Highの固形がんであれば、がん種に関わらず効果を発揮できる薬剤、となります。
では、なぜ「キイトルーダ」はがん種を特定せず、臓器横断的な治療を行えるのでしょうか。
MSI-High固形癌とは、ミスマッチ修復(MMR)機能欠損を有している固形がんのことです。DNA内では、1〜数塩基対の塩基配列の反復単位が散在しており、これをマイクロサテライトと呼びます。マイクロサテライトでは、DNA複製時にエラーが生じやすいと言われていますが、通常はミスマッチ修復(MMR)タンパク質などによって修復されます。
しかし、MMR機能が欠損すると、DNA複製時のエラーが修復されず、マイクロサテライトが異常な反復回数を示します。これをマイクロサテライト不安定性(MSI)と呼ぶのです。
MSI-High固形癌の場合、DNAのエラーが修復されずに蓄積を続け、癌化する危険性が高いと言われています。
MSI-High固形癌に対する抗PD-1抗体「キイトルーダ」の研究では、MSD株式会社によって、KEYNOTE-164試験 コホートA及びKEYNOTE-158試験が行われました。
- <MSI-High固形癌:国際共同臨床試験成績:国際共同第Ⅱ相試験<KEYNOTE-164試験(コホートA)>
化学療法歴のある治癒切除不能なMSI-High結腸・直腸癌患者に対する臨床研究。(全61例)
全奏効率(ORR)32.8%、12カ月無増悪率34.4%、24カ月無増悪率31.0%、病勢コントロール率50.8%。 - <MSI-High固形癌:国際共同臨床試験成績:国際共同第Ⅱ相試験<KEYNOTE-158試験>
化学療法歴のあるMSI-Highの固形がん(大腸がんを除く)に対する臨床研究。
(20種類の固形がん患者、全373例)
全奏効率(ORR)33.8%、12カ月無増悪率35.1%、24カ月無増悪率28.8%、60カ月無増悪率22.0%。
上記の結果から、抗PD-1抗体「キイトルーダ」はMSI-High固形癌に対する承認を得ており、MSI-High固形癌であれば臓器横断的に効果を発揮できるのです。また、これらの研究は全て標準治療の効果が得られなかった患者が対象であり、MSI-High固形癌に対する抗PD-1抗体「キイトルーダ」の有用性が印象付けられています。
TMB-High/キイトルーダ、BRAF V600E/ダブラフェニブ・トラメチニブ
MSI-High固形癌に対する抗PD-1抗体「キイトルーダ」の承認以後、臓器横断的治療の研究は日々進められ、新たに承認となった遺伝子変異と治療薬の組み合わせが増えつつあります。
2022年9月には同じ抗PD-1抗体「キイトルーダ」のおいて、新たに「がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌」が適応拡大となりました。
また、免疫チェックポイント阻害剤ではないですが、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院の研究により、BRAF V600E遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発固形腫瘍に対するダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法の有効性及び安全性が示され、2023年11月に承認となりました。
まとめ
抗PD-1抗体「キイトルーダ」などの臓器横断的治療の考え方は、既存の抗腫瘍薬や分子標的薬で十分な効果を得られなかった進行がん患者の新たな希望でもあります。
免疫チェックポイント阻害剤の開発から始まった、新たながん治療の可能性は大きく広がりつつあります。
出典:MSI-High固形癌:国際共同臨床試験成績:国際共同第Ⅱ相試験<KEYNOTE-164試験(コホートA)>最終解析(データカットオフ:2019年9月9日)
出典:MSI-High固形癌:国際共同臨床試験成績:国際共同第Ⅱ相試験<KEYNOTE-158試験> アップデート解析結果(2022年1月12日カットオフ)