がん免疫療法コラム
乳がんの免疫療法に関する最新レビュー
1.はじめに
近年の免疫生物学の進歩が乳がん治療に与える影響は顕著であり、特に免疫療法が注目される中、従来難治とされてきたトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する新たな治療法が確立されてきています。PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害剤がその中心となり、これらの治療法の組み合わせによる効果が臨床試験において確認されつつあります。
2.転移性乳がん
転移性乳がんにおいては複数の試験が行われ、その結果が明らかになっています。
例えば、KEYNOTE-119試験では、局所進行/転移を有するTNBC患者を対照群とし、ペムブロリズマブ単剤療法を化学療法と比較しましたが、全生存期間(OS)の面では改善が見られませんでした。
一方で、IMpassion130試験では、腫瘍細胞のPD-L1発現率が1%以上の症例において、アテゾリズマブとナブパクリタキセルの併用療法が無増悪生存期間(PFS)を2.5か月延長する結果が得られました。
IMpassion131試験やIMpassion132試験では一部のサブグループにおいて改善が見られなかったものの、新しい治療法の模索が続いています。
また、KEYNOTE-355試験では手術不能な局所再発または転移を有するTNBC患者に対して、ペムブロリズマブが化学療法と組み合わされました。OSが中央値で8か月以上の改善が見られたことにより、PD-L1陽性腫瘍患者に対するFDA承認レジメンとなっています。
3.早期乳がん
早期乳がんにおいても、免疫療法の有効性が示されています。
KEYNOTE-522試験では、II期およびIII期の早期TNBC患者に対してペムブロリズマブをネオアジュバント・化学療法として使用し、その後にアジュバント療法を継続した群において有利な結果が得られました。病理学的完全奏効(pCR)率はペムブロリズマブ群で優れ、36か月時点の無イベント生存率(EFS)もペムブロリズマブ+化学療法併用療法が有利な結果を示しました。これにより、ネオアジュバント・ペムブロリズマブ+化学療法、次いでアジュバント・ペムブロリズマブの併用療法は、2021年7月現在、早期TNBCに対するFDA承認レジメンとなっています。
IMpassion031試験も未治療のTNBC患者においてアテゾリズマブとナブパクリタキセルの併用がpCR率を有意に増加させ、新たな治療法の可能性を示しています。
4.まとめ
現在進行中の臨床試験では免疫チェックポイント阻害剤を従来の治療法と組み合わせ、他の免疫療法とも連携させる試みが進んでいます。これらの新しい治療法の組み合わせが一部の乳がん患者の予後を改善する可能性があり、今後ますます注目を集めることでしょう。免疫療法の進展は、乳がん治療において新たな展望を切り開いています。
5.参考
- Debien V, et al. Immunotherapy in breast cancer: an overview of current strategies and perspectives. NPJ Breast Cancer. 2023.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9925769/)
- ClinicalTrials.gov(https://clinicaltrials.gov/)