がん免疫療法コラム
免疫が若返るかもしれないスペルミジン
免疫機能も老化する
加齢によってがんの発症率が上がったり、新型コロナ感染症のワクチンが効きにくかったりするのはT細胞免疫の衰えることが理由の一つとしてあげられます。
人体の脅威となる病原体に対してさまざまな免疫機能が働いていますが、細胞免疫はがん細胞を直接攻撃して、がんの発症を抑えています。
細胞性免疫の中心的な役割をはたしているT細胞の機能を維持することで、がんの発症を予防したり、がん治療に応用できたりすることも可能です。
スペルミジンは細胞の機能維持に必要
スペルミジンは、生体内ポリアミンの一種であり、細胞の維持や増殖、ミトコンドリアの機能維持に必須です。
若い時には、細胞内に豊富に存在するスペルミジンですが、加齢とともに細胞内のスペルミジンの量が減少することが知られています。
T細胞においても同様にスペルミジンの低下がみられるため、細胞内のスペルミジンの濃度を増加させることで免疫機能を活性化させることも可能です。
実際に、ミトコンドリア機能不全を起こした老化マウスでは、スペルミジンを補充することで、ミトコンドリア機能が改善され、がんに対する免疫が復活したという報告もされています。
スペルミジンの負の側面
免疫力を活性化させるスペルミジンが、がんの免疫応答を抑制するという研究もあります。
がん細胞が細胞死するとき、がん細胞内に存在するスペルミジンが放出されます。
放出されたスペルミジンは、T細胞ががん細胞を攻撃するための目印(T細胞受容体)の伝達を阻害して、T細胞の活性化を抑制しました。
スペルミジンにさらされたT細胞では、細胞膜上のコレステロール量が低下しており、培養系でコレステロールを追加することでT細胞の機能が戻ったことも報告されています。
これらのことから、スペルミジンによるT細胞の機能阻害は、細胞膜上のコレステロールが減少することで、T細胞受容体がうまく機能しないことにあると考えられています。
スペルミジンの研究ががん免疫療法に活用できる
スペルミジンは、細胞内の機能維持に必要な物質であり、がん細胞を攻撃するT細胞の機能維持に必要です。
老化マウスに対する実験においても、T細胞の活性化が報告されています。
しかし、がん細胞由来のスペルミジンでは、T細胞の活性化を抑制してがん増殖を加速させてしまう研究も存在するので、さらなるスペルミジンのメカニズムの解明が求められています。
スペルミジンの活用によって、がん免疫療法に反応しないがんへの治療法確立ができるかもしれません。
参考URL
スペルミジンは T 細胞の脂肪酸酸化を直接活性化し老化による抗腫瘍免疫の低下を回復させる―スペルミジンによる脂肪酸酸化活性化機構の解明―,理化学研究所,京都大学
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-10/221028_chamoto-7e11ac6fe54b7d57a29d35d09a278713.pdf
Tumor cell–derived spermidine is an oncometabolite that suppresses TCR clustering for intratumoral CD8+ T cell activation
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2305245120