がん免疫療法コラム
ピロリ菌で胃がんになるのは炎症が原因
ピロリ菌は胃がんリスクを上昇させる
ピロリ菌は、胃粘膜に感染して胃炎を起こすことが知られています。
ピロリ菌の感染は、治療しなければ生涯にわたって持続することが多く、胃粘膜の慢性炎症は胃・十二指腸潰瘍、胃がんの発症リスクを高めます。
そのため、胃がんを予防するためにもピロリ菌の除菌が非常に重要です。
現在では、1週間薬を服用することで90%以上の成功率でピロリ菌の除菌が可能となっています。
炎症性サイトカインによる遺伝子の損傷
ピロリ菌による慢性胃炎によって、胃の細胞が腸の細胞に変化する「腸上皮化生」が起こります。
この腸上皮化生が起きた細胞(腸上皮化生細胞)が、発がん性の高い細胞なのか、発がん性の低い細胞なのか解明されていませんでした。
がん細胞には特異的なDNAのメチル化異常(エピゲノムフットプリント)が蓄積しています。そこで、腸上皮化生細胞のエピゲノムフットプリントを解析したところ、特異的なフットプリントが蓄積しており、胃がん細胞にもその特異的なフットプリントをもつものが多く、腸上皮化生細胞は胃がん細胞になる危険性が高いことが判明しました。
腸上皮化生細胞におけるDNAメチル化異常の蓄積と要因
さらに腸上皮化生細胞は、DNAメチル化異常の蓄積が加速することがわかりました。また、DNAメチル化を加速させる要因として、炎症を引き起こす「IL-17A」というサイトカインが重要であることが示されました。
胃壁から腸上皮化生細胞が消失しなくてもIL-17Aの放出を防ぐことで、DNAのメチル化が抑制され、がんを予防することも示唆されています。
ピロリ菌の除菌治療は、胃がんの予防に有効であることが知られていますが、その仕組みの一つとして炎症性サイトカイン「IL-17A」の放出を防ぐことで、DNAメチル化異常の蓄積を防ぐことにあると考えられます。
胃がんの治療に免疫療法が使われる
胃がんの発生メカニズムとして、炎症性サイトカインによDNAメチル化異常が原因の一つだと解明されました。
炎症は、免疫機構の一つでもあり、免疫や炎症の研究が進むことで、がん治療の進歩にもつながります。
人体がもつ免疫機能に働きかけることで、がんを治療する「免疫療法」は胃がんも対象であり、さらなる治療法の確立が期待されています。
参考URL
Precancerous nature of intestinal metaplasia with increased chance of conversion and accelerated DNA methylation
https://gut.bmj.com/content/early/2023/09/21/gutjnl-2023-329492