がん免疫療法コラム
卵巣がんの発がんメカニズムが明らかになる
高異型度漿液性卵巣がんは卵巣がんの中でも死亡率が高い
卵巣がんのうち、漿液性がんは最も多く、33.2%の卵巣がんで見られます。
漿液性がんは、高異型度漿液性がんと低異型度漿液性がんに分類されています。高異型度漿液性がんは、抗がん剤に対して感受性が高く、進行を抑えられる可能性も高いとされていますが、再発をきたす頻度も高く、死亡率も高いがんの一つです。
PARP阻害剤が効かない卵巣がん
高異型度漿液性卵巣がんは、卵巣がんによる死亡者数の70〜80%を占めており、治療法の確立が求められていました。
高異型度漿液性卵巣がんのゲノム以上は、頻繁に研究されており、相同組換え修復経路(DNA配列の損傷を修復する経路の一つ)に異常がある高異型度漿液性卵巣がんについてPARP阻害剤が有効であると示唆され、臨床応用も始まっています。
しかし、相同組換え修復経路に異常が認められないタイプの卵巣がんについては、有効な治療法が存在しませんでした。
マルチオミックス解析によって卵巣がんのメカニズムが判明する
細胞や遺伝子などに存在している分子や生物学的情報を網羅的にまとめたものを「オミックス」と呼びます。
複数のオミックス情報を用いて、統合的に行われる解析方法が「マルチオミックス解析」です。
複数のオミックス情報を解析することから、DNA解析による疾病リスクやがん特異的遺伝子変異などの調査などにマルチオミックス解析が使われています。
国際共同研究グループは、高異型度漿液性卵巣がんの発生母地である卵管分泌上皮細胞に遺伝子導入を行い、難治性の卵巣がんを発がんさせ、エピゲノム(DNAやヒストンの遺伝子発現量を制御する役割がある)に対してマルチオミックス解析を行いました。
結果として、卵巣がんの発がん初期にエピゲノム異常を介して、転写因子のDNA結合異常を発見しました。
これらのことから、PAPR阻害薬が効きにくかった高異型度漿液性卵巣がんに対してMEK阻害薬で治療できる可能性が示唆されています。
免疫療法との組み合わせによる治療法も開発される可能性
高異型度漿液性卵巣がんは、非常に治療が難しいがんであり、卵巣がんによる死亡者数の多くを占めています。
しかし、近年では、高異型度漿液性卵巣がんの発がんメカニズムが解明されていき、治療法も確立しつつあります。
従来の治療法では、治療が難しかったがんについても、新しい治療法が確立されたり、免疫療法など複数の治療法と組み合わせたりすることで治療も可能です。
高異型度漿液性卵巣がんなどの治療が難しいがんに対しても、免疫療法が活躍する可能性もあります。
参考URL
Integrative analysis reveals early epigenetic alterations in high-grade serous ovarian carcinomas
https://www.nature.com/articles/s12276-023-01090-1
第2章卵巣癌・卵管癌・腹膜癌,公益社団法人日本婦人科腫瘍学会
https://jsgo.or.jp/topics/img/pubcom2020/02.pdf