がん免疫療法コラム
光線力学的療法とは?
はじめに
現在、癌の治療法は①手術療法(外科的切除や内視鏡的切除)、②化学療法、③放射線治療の3つ柱が主体になっています。しかし、これらの既存の治療は癌細胞のみではなく、周囲の正常組織や臓器にも傷害を与えることになり、副作用も生じることになります。そのため、正常細胞や組織を傷害することなく、特異的に体内の癌細胞のみに傷害を与えることができるような極めて特異的な癌治療法があれば、癌に対しては強力でありつつも副作用がない治療法となるため、様々な研究が進んできました。
この理論に基づいた新しい癌治療法として近赤外線を用いた近赤外光線免疫療法が2011年に Nature Medicineに発表されました。それ以来、光線力学的療法による癌治療が注目されるようになりました。
光線力学的療法とは?
光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)とは、腫瘍組織や新生血管に集まる性質を持った光感受性物質(医薬品)を患者さんに投与し、光感受性物質が集まった箇所に低出力のレーザー光を照射して、光感受性物質に光化学反応を引き起こして活性酸素を発生させ、がん細胞を変性・壊死させる治療法です。
もともと、加齢黄斑変性に対する治療法として、PDTが本邦では2004年5月から保険適用となっていました。光増感剤である「ビスダイン®」を静脈注射で体内に投与した後に、病変部に弱いレーザー光線を照射し、脈絡膜新生血管を閉塞させます。
これが癌においても応用できるのではないかと考えられていました。
PDTの適応
現在では肺がん(早期、進行がん)、悪性脳腫瘍、早期食道がん、再発性食道がん、胃がん、早期子宮頸がんに保険適用されています。
PDTでは光感受性物質の投与が必要となりますが、この光感受性物質の欠点として、顔や手などの露出した皮膚にレーザ光以外の日光などの光が当たると、化学反応が起こしてその部分が発赤、発疹、水疱などの光線過敏症を起こすことが知られています。
光免疫療法との違い
光免疫療法(Photoimmunotherapy)という言葉を聞いた方も多いのではないでしょうか?これは光線力学療法と免疫療法を組み合わせた画期的な方法になります。がん細胞の表面に出ているたんぱく質(EGFR)に結合する性質を持つ抗体に光感受性物質を結合させた薬剤を点滴で体内に注入し、そこに近赤外光を照射すると、がん細胞が破壊されるという仕組みです。
まとめ
以上、光線力学的療法は、正常な組織を傷つけることなく癌細胞を特異的に破壊する低侵襲な新しい治療法として注目されています。しかし、光線過敏症などのリスクもあるため、治療を受ける際には十分な情報を得て慎重に検討する必要があります。
参考文献:信州医誌,68⑵:83~95, 2020