新しい腎がん抗原が発見される

免疫細胞はがん抗原を認識して攻撃する

免疫細胞は、細菌やウイルスなどの病原体を排除する役割があります。また、病原体の排除以外にも体内に発生したがん細胞を死滅させる働きもあり、健康を維持するためにも免疫細胞は重要な細胞です。

がん細胞には、通常の細胞とは異なる目印（抗原）が発現しており、免疫細胞は抗原を目印にしてがん細胞を攻撃します。

しかし、がん細胞の中には、免疫細胞の攻撃から身を守るために抗原を隠したり、免疫細胞の働きを抑制する物質を分泌したりするものも存在し、がん治療においても問題視されていました。

免疫細胞ががんを攻撃する働きを促進するためにも、がん抗原の特定が進められています。

腎がんではがん抗原が解明されていなかった

腎がんは、腎臓にできるがんの中でも、腎実質の細胞ががん化して発症します。

目立った初期症状がなく、早期発見が難しいがんの一つです。

腎がんの治療は、通常の抗がん剤治療や放射線療法以外にも免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法が行われます。

免疫チェックポイントは、免疫細胞の働きを抑制するブレーキの役割を持っています。免疫チェックポイントを薬剤で阻害することで、免疫細胞の働きを活性化させます。

しかし、腎がんのがん抗原は特定されておらず、免疫細胞がどのように腎がん細胞を攻撃するのかは、詳細にわかっていませんでした。

腎がんにおけるがん抗原はhERV遺伝子に由来する

腎がん組織を免疫プロテオゲノミクスで解析した研究では、腎がんのがん細胞にhERV（ヒト内在性レトロウイルス）遺伝子に由来する抗原が提示されていることが判明しました。

免疫プロテオゲノミクスは、免疫細胞と標的細胞に特化した解析法であり、従来の検査方法では解析できなかった抗原ペプチドのタンパク配列を解析できるのが特徴です。

腎がん細胞と正常組織を比較したところ、腎がん患者ではhERV応元に反応する免疫細胞が集まっていることが確認され、健康なヒトの血液中においても免疫細胞を刺激することがわかりました。

このことから、ヒトの免疫系はhERVがん抗原を目印にがん細胞を認識している可能性が示唆されています。

hERVがん抗原は免疫チェックポイント阻害薬の新しいバイオマーカーになる

さらなるhERVがん抗原の研究を進めることで、がん予防ワクチンへの応用も可能であると考えられます。

また、hERVがん抗原は、腎がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の新しいバイオマーカーになる可能性もあるので、治療の難しい腎がんの治療薬の実用化が期待されています。

参考URL
ヒト内在性レトロウイルス由来の腎がん抗原を発見 　～腎がん免疫治療戦略に新しい光～,札幌医科大学
https://web.sapmed.ac.jp/jp/news/press/a4ads60000000t92.html