がん免疫療法コラム
ストレスで膵臓がんが進行する可能性
がんと交感神経・副交感神経との関わり
近年では、がんと交感神経や副交感神経には、相関性があると考えられるようになりました。
交感神経や副交感神経は、呼吸や体温調節、心臓などの臓器の働きを司る神経であり、交感神経と副交感神経をまとめて自律神経と呼びます。
自律神経は、昼間や活発に活動しているとき、ストレスを受けているときに働くのが交感神経、夜間やリラックスしているときに働くのが副交感神経です。
交感神経の神経伝達物質としてアドレナリンやノルアドレナリンがあり、交感神経に存在するアドレナリンα受容体やβ受容体と結合することで作用します。
アドレナリン受容体は、がん細胞に発現することが知られており、ストレスによるアドレナリン受容体の活性化は、がんの発症リスクを高めることが示唆されています。
ストレスによる膵臓がんの発がん促進
膵臓にも交感神経や副交感神経が存在し、ストレスによって膵臓がんの発症リスクが上昇することが報告されています。
膵臓に前がん病変を発現させた状態のマウスに、拘束によるストレスを与え続けました。
その結果、ストレスを与えたマウスでは、体内のアドレナリンが増加し、膵臓がんの発症率が38%も上昇したことがわかりました。
また、ストレスに加えてアドレナリンβ受容体作動薬を投与したマウスでは、膵臓がんの発症率が77%も上昇しており、アドレナリンβ2受容体が機能していないマウスでは、12%も膵臓がんの発症率が低下していました。
同様にストレスホルモンを分泌する副腎を切除したマウスも膵臓がんの発症率が低下したことから、ストレスとがん発症の関連性が示唆されています。
膵臓がんのβ受容体阻害剤投与による生存期間の延長
膵臓がんモデルマウスの膵臓がん細胞は、正常な膵臓と比較してアドレナリンβ2受容体が多く発現しており、交感神経も過剰に働いている状態であることがわかっています。
膵臓がんのモデルマウスに対して抗がん剤単体で治療したグループと抗がん剤とアドレナリンβ2受容体阻害薬を併用したグループを比較した研究では、抗がん剤単体のグループの平均生存期間が18日だったのに対してアドレナリンβ2受容体阻害薬を併用したグループが36日も生存しました。
外科的切除を受けた膵臓がんの患者を対象とした研究でも、非選択的アドレナリンβ受容体阻害薬を使用することで、生存期間が40ヶ月に延長したことが報告されています。
これらのことから、膵臓がん治療にアドレナリンβ2受容体阻害薬の併用が治療法として有効である可能性が示唆されました。
交感神経の関わりから膵臓がんへアプローチする
膵臓がんは、他のがん種に比べると治療が難しいとされています。
膵臓がんの発症メカニズムが解明されることで、治療法も進化することが予想されます。
膵臓がんの発症には、交感神経が深く関わっていることが報告されており、交感神経に関連する神経伝達経路を阻害することで治療や予防ができるかもしれません。
参考URL
β2 Adrenergic-Neurotrophin Feedforward Loop Promotes Pancreatic Cancer
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29249692/